上位10にアジアから最多校 英教育誌のヤング大学ランキング

2021年7月06日 小岩井忠道(科学記者)

英教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」は6月23日、創立後50年以内の大学を対象にした「ヤング大学ランキング」を発表した。シンガポールの南洋理工大学が1位のほか、韓国から3大学、香港から2大学が上位10校に入った。上位10校でアジアの大学が他の地域を上回ったのは今年が初めて。THEは、過去50年間にアジアで新たに設立された大学が着実に成長し、その実績が高まっていることを反映しているとみている。

南洋理工大学は、特に研究に関わる評価が高く昨年の2位から初めて1位になった。韓国では、韓国科学技術院(KAIST)が昨年の5位から4位に、浦項工科大学校が8位を維持、蔚山科学技術大学校が17位から10位に浮上し、韓国は上位10校に最も多くの大学を送り込んだ国・地域となった。韓国のこれら3校はいずれも、教育機関の技術移転活動を測る指標「産業界からの収入」で非常に高い評価を得ている。

アジアからはこのほか、香港の香港科技大学が3位(昨年1位)、香港城市大学が5位(同7位)に、さらに太平洋地域からオーストラリアのシドニー工科大学が9位(同15位)に入った。オーストラリアからは上位40に最も多い7大学が入っているのが目を引く。

THE「ヤング大学ランキング2021」 上位40校

世界順位 前年順位 THE2021順位 QS2022順位 大学名 国・地域
47 12 南洋理工大学 シンガポール
46 44 PSL研究大学 フランス
56 34 香港科技大学 香港
96 41 韓国科学技術院(KAIST) 韓国
126 53 香港城市大学 香港
121 233 マーストリヒト大学 オランダ
170 サンターナ大学院大学 イタリア
151 81 浦項工科大学校 韓国
15 160 133 シドニー工科大学 オーストラリア
10 17 176 212 蔚山科学技術大学校 韓国
11 13 170 233 アンロワープ大学 ベルギー
12 19 56 34 香港理工大学 香港
13 87 72 ソルボンヌ大学 フランス
14 11 136 261 パリ大学 フランス
15 10 152 248 ポンペウ・ファブラ大学 スペイン
16 18 184 436 キャンベラ大学 オーストラリア
17 14 186 213 クイーンズランド工科大学 オーストラリア
18 16 201-250 801-1000 デュースブルク・エッセン大学 ドイツ
19 36 201-250 インスブルック医科大学 オーストリア
20 12 201-250 ルクセンブルク大学 ルクセンブルク
21 24 201-250 グラーツ医科大学 オーストリア
22 31 パリ・サクレー大学 フランス
23 26 201-250 193 ウーロンゴン大学 オーストラリア
24 27 201-250 ヴィエンナ医学大学 オーストリア
25 23 201-250 326 オールボー大学 デンマーク
26 47 251-300 275 南方科技大学 中国
27 33 251-300 ヤーコプス大学 ドイツ
28 20 201-250 112 アールト大学 フィンランド
29 30 201-250 290 グリフィス大学 オーストラリア
30 28 251-300 701-750 ポツダム大学 ドイツ
30 21 251-300 390 ヴィータサルーテサンラッファエーレ大学 イタリア
32 38 251-300 651-700 澳門科技大学 マカオ
33 22 301-350 パッサウ大学 ドイツ
34 36 251-300 494 西シドニー大学 オーストラリア
35 34 201-250 194 カーティン大学 オーストラリア
36 31 251-300 アルファイサル大学 サウジアラビア
37 34 301-350 414 タンペレ大学 フィンランド
37 54 251-300 240 スヴィッツェラ・イタリアナ大学 スイス
39 42 301-350 322 澳門大学 マカオ
40 40 251-300 451 オークランド工科大学 ニュージーランド

THE2021順位:タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「世界大学ランキング2021」順位、QS2022順位:英国高等教育評価機関「QS(クアクアレリ・シモンズ)」の「世界大学ランキング2022」順位
(Times Higher Education Young University Rankings2021,2020、同World University Rankings 2021、QS World University Rankings 2022から作成)

「ヤング大学ランキング」の評価手法は、THEの世界大学ランキングとほぼ同じ。教育(学習環境)、研究、論文被引用数(研究影響力)、国際性、産業界からの収入という5つの評価指標を設定、それらをそれぞれさらに細分化した合計13項目について点数を付け、総合点で順位を決めるという方法だ。教育(学習環境)、研究ともにそれぞれ全体の30%という高い配点比率となっており、教育(学習環境)の場合は、このうち世界の著名な研究者1万人以上に大学の学習環境に対する評価を聞いた調査結果を基にした「評判」に15%という高い配点比率が割り振られている。研究についても、同様の調査で大学の研究力を聞いた結果に基づく「評判」に18%というさらに高い配点比率が割り振られている。「ヤング大学ランキング」では、これら「評判」に対する配点比率をそれぞれ三分の一減らし、その分を教育(学習環境)と研究に含まれている他の評価項目に上乗せするという新しい大学に対する配慮が施されている。

結果として、昨年9月に公表済みのTHE「世界大学ランキング」の評価結果とは一部、変化が見て取れる。今年、6月に公表された英国の高等教育評価機関「QS」の「世界大学ランキング2022」の評価手法は、「学術関係者からの評判」に割り振られた配点比率が40%を占めるといったTHEの評価手法との違いがある。

THEは、同時に公表した論説記事で、新型コロナウイルス感染拡大のような事態には若い大学の方が機敏な対応ができた可能性があることを紹介している。「規模もそれほど大きくないので、すべての学部と協力することができる。学生たちが発言力を持ち、私たちの強みは何か、何を変える必要があるかなどのアイデアを送ってくれる」(デ・シェッパー・アントワープ大学副学長兼教育学部長)。「若い大学は、大学全体が合議制であること、オープンであることを重視する傾向があり、はるかに機敏であり得る。多くは、伝統や歴史の重みよりも他の利点を生かさなければならないため、これを文化の一部としている」(アッティラ・ブルングス・シドニー工科大学副理事長兼学長)。こうした言葉を紹介して、若い大学が持つ強みを指摘している。

南洋理工大学に対してTHEは、工学、理学、人文・社会科学の3学部が参加する新しい標準教育課程(common core curriculum)の試験運用が始まっているなど、新型コロナウイルス感染拡大後の社会が必要とする新しい知識と技能を学生に与えることを狙った新たな取り組みに力を入れていることを評価する記事を4月に掲載している。

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