G7仙台科学技術大臣会合-国際科学技術協力の推進に向けた議長国日本の取り組み(下):地球規模課題解決のための科学技術に関する国際協力

2023年6月8日

樋口義広(ひぐち・よしひろ):
科学技術振興機構(JST)参事役(国際戦略担当)

1987年外務省入省、フランス国立行政学院(ENA)留学。本省にてOECD、国連、APEC、大洋州、EU等を担当、アフリカ第一課長、貿易審査課長(経済産業省)。海外ではOECD代表部、エジプト大使館、ユネスコ本部事務局、カンボジア大使館、フランス大使館(次席公使)に在勤。2020年1月から駐マダガスカル特命全権大使(コモロ連合兼轄)。2022年10月から現職。

G7仙台会合の主要議題の3つ目は、「地球規模の課題を解決するための科学技術に関する国際協力」である。

まず、地球規模の課題に対する革新的な解決策を見いだす上で国際科学技術協力が重要な役割を果たすことを再確認した上で、宇宙、気候変動、海洋、極域研究等の個別テーマや研究インフラのグローバルな活用や国際人材の移動・循環の促進等の個別テーマが取り扱われた。

宇宙:スペースデブリへの対応

宇宙については、主として軌道上のスペースデブリの問題が喫緊の課題として取り上げられた。今回議長を務めた高市大臣が宇宙政策担当大臣でもあることから、宇宙は、今回日本がG7議長国として特に重視するテーマの1つとなった。G7科学技術大臣会合で宇宙が直接的に取り上げられたのは初めてとのことである。

スペースデブリ
(イメージ写真)

具体的には、国連宇宙空間平和利用委員会(UN COPUOS)で採択された国際ガイドラインの実施等を通じたデブリ発生抑制と、デブリ除去技術の開発と国際協力が奨励された。日本のベンチャー企業がデブリ除去技術の開発に取り組んでおり、日本はこのテーマを重視している。共同声明は、「破壊的な直接上昇型ミサイルによる衛星破壊実験(DA-ASAT)を実施しないとのG7メンバー各国が既に表明したコミットメントを改めて表明し、他国が後に続くよう促す」とした。ここではG7以外の国(かかる宇宙活動を行うことのできる対象国は自ずと限定されるだろうが)に自制行動を促すメッセージとなっている。

海洋:気候変動を踏まえた国際協力

海洋も、従来より日本が重視してきているテーマの1つである。実際、2016年のG7茨城・つくば科学技術大臣会合での議論を踏まえ、「G7海洋の未来に関するイニシャティブ(FSOI)ワーキング・グループ(WG)」が設立され、それ以降はG7各国のFSOIナショナルフォーカルポイントと英国及びEUがホストしているFSOI調整センターが中心となって議論と作業が続いてきている。2022年11月のFSOIワーキング・グループ会合において、G7現議長国と次期議長国の共同議長制とすることが決定された。他のWGと同様、FSOI・WGの活動報告は、大臣会合共同声明に附属文書の1つとして添付された。

共同声明では、研究調査船、アルゴフロート、係留ブイ、衛星などによる包括的な海洋観測の実施、改善にコミットするとともに、海洋のデジタルツインの開発を進め、観測とモデリングの両方の改善により、付加価値のあるモニタリングと予測の情報を共有することが必要であるとの認識が示された。

関連テーマとして、北極と南極の両極域の問題がある。両極域は、深海と共に、広大なデータ空白域となっていることや、気候問題への対処において益々重要になっていること等から、その観測と研究のための国際協力の強化が求められている。共同声明では、極域研究の重要性と北極域研究船や南極域研究船などの国際的な観測プラットフォームの使用等を通じた国際協力への支持が確認された。

北極に関する国際的な科学技術協力の枠組みとしては、約30か国が参加する北極科学大臣会合(Arctic Science Ministerial, ASM)がある。日本は、2021年にASM第3回会合を東京でアイスランドと共催するとともに、北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)の実施や北極域研究船の建造など、従来からこのテーマに積極的に対応してきている。このような背景の下、極域研究とそのための国際協力が、日本が議長を務めるG7科技大臣会合の枠組みで初めて具体的に取り上げられたものと思われる。

研究インフラ等のグローバルな活用の促進

研究インフラ等の活用促進に関しては、共同声明において、研究インフラの物理的機能とデジタル的機能の相互接続によって、新しい研究開発の方法論だけでなく、経済にも影響力のあるイノベーションをもたらすことができるとの認識が示された。

研究インフラに関する国際協力は、初めてのG7科技大臣会合となった2008年の沖縄会合における主要テーマの1つであったことが想起される。以来、このテーマに関する高級実務者グループ(Group of Senior Officials, GSO)の下で継続的に議論が行われてきた。GSOは、欧州委員会(EC)が事務局を務めており、G7以外の国(豪、伯、中、印、メキシコ、露、南ア)も参加しているのが特徴である。GSOの対面会合は、2019年の上海会合が最後で、その後、新型コロナの影響でオンラインでの作業となったが、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、オンライン作業も中断した。その後、ロシアとの協力を中断するとの決定を経て、昨秋から作業は再開した。次回のGSO対面会合は、日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)を会場として開催される方向で調整されているという。

なお、大規模な先端研究インフラの最新事例の1つとして、仙台会合の出席閣僚らは、現在建設中の「巨大な顕微鏡」と言われる次世代放射光施設ナノテラスを視察している(5月14日)1

次世代放射光施設ナノテラスを視察
(提供:内閣府)

国際人材の移動・循環の促進

国際人材の移動と循環の促進については、仙台会合の共同声明で、「グローバルなイノベーション・エコシステムを強化するため、世界レベルの研究者間の協力を促進することにより、G7とその連携国の間の連結性を高めるべきである」、「G7は、国際的な人材の移動及び循環、特に若手研究者が価値観を共有する他のパートナー国との国際協力や共同研究に取り組むことを奨励する」、「国際的な研究協力及び移動に対する障壁を特定し、それを最小化するために協力する」と謳われた。

優れた研究成果やイノベーションは、多様な⼈材が交流、協働、競争する環境の下で促進されることから、国際頭脳循環の強化は、活⼒ある研究開発のための必須条件と考えられている。国際競争力の回復を目指す日本にとっても、研究環境の国際化を進めるとともに、国際人材交流を推進し、国際的な頭脳循環のネットワークに日本が組み込まれていくことが益々重要となっている。世界のトップ研究者サークルへの日本研究者の参画を支援するため政府出資の基金を活用してJSTとAMEDが実施する先端国際共同研究推進事業/プログラム(ASPIRE)がまもなく本格始動する。この事業は、まさにG7でのこのような問題意識を踏まえた日本としての取り組みの実例である。

サイドイベントとGサイエンス学術会議等

仙台会合への出席閣僚等は、会合終了後のサイドイベントとして、先述のナノテラス視察の他、震災遺構仙台市立荒浜小学校と東北大災害科学研究所を訪問するとともに(5月13日)2、ハイレベル会合「量子技術が切り拓く未来」に参加した(5月14日)3

ハイレベル会合「量子技術が切り拓く未来」
(提供:内閣府)

この量子技術に関するハイレベル会合は、東北大学とQ-STAR(一般社団法人量子技術による産業創出協議会、2022年5月設立)の主催で開催されたもので、海外産業団体を含む産官学が一同に会する形で、世界的に関心が高まっている量子技術の社会実装をグローバルで加速させるための取組みや課題の共有についての活発な意見交換が行われた。

G7の科学関連のエンゲージメント・グループとして、Gサイエンス学術会議(G Science Academy)がある。この会議は、G7各国のナショナルアカデミーの代表者等が地球規模の重要課題について議論し、提言を行うもので、日本からは、日本学術会議が参加している。

今年の会合は、3月7日に日本学術会議の主催で開催され、「気候変化に伴うシステミックリスクに対応する分野横断的意思決定を支える科学技術」、「知見の共有とイノベーションによる高齢者の健康増進とより良いウェルビーイングの実現」、及び「海洋と生物多様性の再生・回復」の3本立ての共同声明をとりまとめた4。Gサイエンスによるインプットは、G7科技大臣プロセスを経由せず、G7首脳に対して直接報告される形式をとっている。共同声明は、G7広島サミットで議長を務める岸田総理に手交された5

G7議長国を日本から引き継ぐイタリアは、来年、G7科技大臣会合を開催する意向を表明している。イタリア主催の会合としては、2017年のG7トリノ科学大臣会合に次ぐものとなる。また、今年7月には議長国インド主催でG20研究大臣会合が予定されている。G7やG20といった主要な国際的な枠組みにおける議論の活発化は、科学技術・イノベーションが国際協力の主要テーマとして主流化し、定着してきていることを示している。

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