G20における科学技術・研究・イノベーションに関連する議論③―G20 エンゲージメント・グループとしてのS20

2022年12月08日

樋口義広(ひぐち・よしひろ):
科学技術振興機構(JST)参事役(国際戦略担当)

1987年外務省入省、フランス国立行政学院(ENA)留学。本省にてOECD、国連、APEC、大洋州、EU等を担当、アフリカ第一課長、貿易審査課長(経済産業省)。海外ではOECD代表部、エジプト大使館、ユネスコ本部事務局、カンボジア大使館、フランス大使館(次席公使)に在勤。2020年1月から駐マダガスカル特命全権大使(コモロ連合兼轄)。2022年10月から現職

サイエンス20のコミュニケ

各種大臣会合やRIIG等がメンバー国政府間の協議プロセスであるのに対し、G20には政府以外の様々なステークホルダーが提言等をとりまとめる複数の「エンゲージメント・グループ」があり 1、その中で科学技術関連のものとしてサイエンス20(S20)がある。

S20は、G7の枠組みで設けられた「Gサイエンス学術会議」に倣って、2017年のドイツ・ハレのG20で立ち上がった、メンバー国の学術組織の代表が参加して提言をとりまとめるエンゲージメント・グループで、日本からは日本学術会議が参加している。「共に回復し、より強く回復する」(注:今年のG20の総合テーマ)と題された今年のS20によるコミュニケ(共同声明)は、9月22日に発表された 2

G20のサイドイベント
(出典:首相官邸ホームページ)

要約部分を含めて全体で約10ページのコミュニケは、5つの優先課題(強靱な保健システムの構築、気候変動に対する保健システムの適応力の強化、パンデミックへの備えと気候変動のための多くの学問領域に亘る(multi-disciplinary)科学と技術の強化、人間を中心におくことの保証、気候変動とパンデミックの予防と経済回復のためのデータ・研究・政策・実践の連携強化)に関して行動指針を推奨している。

今年のS20はインドネシア科学アカデミー(AIPI)が事務局を務め、S20独自のウェッブ・サイトも運営している 3

宇宙開発:スペース20

G20メンバー国の宇宙関連機関等の会合である「宇宙経済リーダー会合(Space Economy Leaders Meeting)」は、2020年のサウジアラビア議長の下で初めて開催され、2021年のイタリア、2022年のインドネシアへと引き継がれた。今年の会合は、10月28日にジャカルタで開催され、宇宙関連機関によるセッションと宇宙関連産業関係者によるセッションに分かれて議論が行われた。この会合は「スペース20」とも称されるが、G20のエンゲージメント・グループとしてはまだ正式に確立されたものではないようである。3月に開催されたトロイカ準備会合には、昨年の議長国イタリア(イタリア宇宙機構(Italian Space Agency, ASI)と共に、来年のG20議長国インドのインド宇宙研究機関(India Space Research Organization, ISRO)が参加していることから、この枠組みは来年も継続される可能性が高いと思われる。

この会合の議長役を務めたインドネシアBRINは、記者会見において、スペース20の目的を、SDGsの達成のために持続的なデジタル経済を実現し、スタートアップを含む宇宙産業の強化を通じた経済成長を図り、G20メンバー間での宇宙技術の利用に関する協力を推進するためと述べている。また、まだ科学的宇宙ミッションを実施していないメンバー国が他のメンバー国と協力して宇宙ミッションに参加する機会を得ることも期待されるとしている。

インドネシアは大小約18,000もの島々から成り、東西約5,100km、南北約1,900kmに及ぶ国土は日本の約5倍もある。この広大な国土をカバーするため、衛星データによる気象、河川、海洋情報は、気候変動への対応、自然災害対策、土地開発モニタリングのために重要な役割を担っている。インドネシアが重視している生物多様性の保全にもリモートセンシング等、衛星を使ったネットワーク構築が不可欠となってくる。

これまでインドネシアの宇宙開発において大きな役割を果たしてきた国立宇宙研究所(LAPAN)は、他の政府関連機関と共にBRINに統合されることが決定しており、現在そのための組織改編が進んでいる。今回のスペース20をBRINが主催した背景にはそのような国内事情がある。

インドネシアの宇宙開発はこれまで技術や資金の面で政府中心であったが、BRINとしては、今後はスタートアップを含め、宇宙開発における民間企業の活動を積極的に促進したいとの意向であり、宇宙関連産業関係者のセッションを今回設けたのにもそのような狙いがあったと思われる。

=つづく

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