成長するシンガポールのフィンテック、政府の振興策が後押し

2023年8月21日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 斎藤 至

フィンテックは、人工知能(AI)に強みを持つシンガポールの発展を支える基幹分野だ(写真はイメージ)

シンガポールはアジア・太平洋地域の金融センターとして発展してきた。直近5年の統計からも、対外資産残高と対外負債残高が持続的に増えており、安定した地位が伺える。またKPMGコンサルティングやアメリカ商務省国際貿易局の調査によれば、2022年におけるシンガポールのフィンテックを通じた投資は34億米ドルから41億米ドルに増加(世界の総投資額は2,390億米ドルから1,641億米ドルに減少)、世界シェアを約1.4%から2.5%に伸ばし、電子決済、暗号通貨/ブロックチェーン、レグテックを筆頭に、活発な取引がなされている1

このような状況の下、8月7日には、シンガポール通貨庁(MAS)が金融セクター技術イノベーションスキーム(FSTI 3.0)の下で、3年間で1億5,000万シンガポールドル(約159億円)を投じることを表明した。

FSTI 3.0では以下三つの新たな助成コース(トラック)を新設するとしている。

  • 強化版卓越研究拠点トラック(Enhanced Centre of Excellence track):従前の「イノベーション・ラボトラック」を更新し、ファンディング対象をコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)にまで拡大する。
  • イノベーション加速トラック(Innovation Acceleration track):産業界がWeb 3.0などの新興技術から派生するフィンテックの技術開発を支えている状況を認識し、産学連携を促進。ユースケースの試行と商業化にファンディングを提供し、イノベーションを促す。
  • ESGフィンテックトラック(ESG FinTech track):環境・社会・ガバナンス(ESG)関連のフィンテックについて、ビッグデータ利用・報告・分析を行う研究の発展と展開を支えるため、一事業あたり50万シンガポールドルを上限に最大50%をファンディングで支援する。

同スキームはまた、レグテック2やAI・データ分析(AIDA)といった、フィンテックの鍵となる分野の更なる進歩を支援し続けるとしている。とりわけ、中小の金融系企業にデータ分析手法の導入を促し、デジタル化の進んでいない企業からのレグテック整備ニーズに応えるとしている。

シンガポールは過去のイノベーションスキームを通じても、フィンテック分野の技術開発に注力してきた。現在も成長を続けるこの分野を支えるべく、専門知を有した高度人材の育成・確保も最近急速に進んでいる。既にMASはシンガポール国立大学(NUS)を支援し、サステナブル&グリーン・ファイナンス研究所(SGFIN)を発足した3。またNUSは、傘下の研究機関アジア・デジタル・ファイナンス研究所(AIDF)と政府系投資ファンドGICの協力で、デジタル金融技術(Digital FinTech, DFT)の博士号取得者育成スキームに合意している4

シンガポールでも、多くの先進諸国と同様、経済成長の鈍化や人口の高齢化などが報じられ、現政権の支持基盤にも揺らぎが見えている。この状況下、フィンテックやその関連分野は、国の経済活動を支える成長分野として一層重要な位置を占めつつあると言える。政府による後押しを受けて進むイノベーションの行く末を今後も注視してゆきたい。

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