インドネシアのGovTech構想、官僚制改革と共に急速進展

2024年4月16日 斎藤 至(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

インドネシアでは2024年に入り、国のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速させる戦略の1つとして、政府サービスのデジタル化が急速に進んでいる。既存のDXオフィス(DTO)の規模を拡大し、ガブテック・インドネシア(GovTech Indonesia)へと拡充する計画であるという。本稿ではその課題と進展を概観しつつ、今後の展望を試みたい。

デジタル化の進展で、将来的には物理的なIDカードを持つ必要すらなくなるという
(写真はイメージ)

政府サービスの一元化で世界での存在感を向上

これまでインドネシアでは、硬直的な官僚制が障壁となって、分野やセクターを超えた協働、迅速な行政手続き、効率的な資金配分を困難にしてきた。科学技術分野も例外ではなく、高い成長ポテンシャルが期待されながらイノベーションの実現に結び付かない点が課題と指摘されてきた。2019年大統領令第74号に基づいて旧来の関連省庁が国家研究・イノベーション庁(BRIN)へと再編され、課題を克服する様々な改革が講じられている。

政府サービスに関連しては、既にヘルスケア分野で医療情報の統合アプリ「サツセハット」の開発と導入が進んだ。2023年2月に全国的導入が発表され、一元的なサービス管理が困難であった群島国家インドネシアで、医療情報のユニバーサル化進展に大きく寄与した。2020年から発生した新型コロナウイルス禍では個人追跡アプリとして機能し、限られた医療人材でサービスを維持するとともに、出入国手続きの円滑化にも大きく寄与した1

サイバーセキュリティ分野でも進展が見られた。違法オンライン賭博の取り締まりに、金融庁(OJK)や情報通信省(Kominfo)が連携して国内80万超のコンテンツアクセスを阻止し、着実な実績を上げているという。

ガブテック・インドネシアは行政・官僚改革省が主導し、上述の2分野ほか、社会保障、警察、電子決済、データ交換など9つの優先分野を対象としている2。2024年2月末現在、約860万枚の国民デジタルID(IKD)が有効化されているという。2024年5月迄には全ての省庁アプリが、APIを介してポータルサイト「INA Digital」へと統合される予定だ3。同相を務めるアブドゥラ・アズワル・アナス氏は「私たちはアプリ提供に際して、プロバイダー中心からユーザー中心へとアプローチを変えた。ポータルサイトを訪れる国民が、自身の探しに来た政府サービス情報を直ちに得られるよう、改善に努めたい」と述べている。

世界で高評価の起業環境 それを活かす基盤構築に期待

インドネシアは、世界知的所有権機関(WIPO)の2023年報告書によると、スタートアップのための資金調達面で世界4位、「起業家政策・企業文化支援」が世界2位など、起業環境として高く評価されている。世界第4位の人口を有し、かつその年齢構成は平均20歳代後半と若いため、先端技術を扱うテック系スタートアップが事業拠点を置く環境としてはアジア・太平洋地域内で最適と言える。その活動基盤を支える政府サービスのDXは、世界のスタートアップ招致や自国スタートアップが外国拠点と連携するに際しても、有利に働くと考えられる。

国外に目を転じれば、東南アジアでは先行して、シンガポールでは2016年からGovTechが稼働し、一元的かつ簡便なサービス提供を実現している。その機動性がもたらすメリットは、国民へのコロナワクチン接種で証明された。アジア域外では、人間中心視点を踏まえたガブテックとして、北欧・デンマークが最先端を走る4。国家的なデジタル化構想が緒に就いたばかりのインドネシアで、これらの先進事例に追い付くにはまだ多くの課題や障壁が山積するに違いない。しかし世界からの高評価と若い生産年齢人口を後押しに、既に急速な進展事例も見られる。新大統領就任を控えて胎動し続ける変革への機運を注視したい。

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