AI主導型経済の構築へ、国家事務局を設置 マレーシア

2024年12月24日 斎藤 至(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国では2025年のデジタル経済枠組み合意(DEFA)成立にむけて、情報通信技術(ICT)を核とした研究開発の政策的支援が急速に推し進められている。とりわけ科学技術力の高いシンガポールとマレーシアでは、国家戦略・ロードマップの策定や具体的なファンディング整備が進められている。

シンガポールは2014年からスマート・ネイション構想を立ち上げ、デジタル技術を核に据えた都市国家建設を進めてきた。2023年12月に国家AI戦略の改訂版(NAIS2.0)が策定され、2024年10月にはこれを踏まえたスマート・ネイション構想第2弾(SN2)が発表されるなど、その実現は着実に進んでいる。

これに対してマレーシアでは、シンガポールほどに急速ではないものの、デジタル省が政策の統括的担い手として2023年12月に設置され、本格的なデジタル国家の建設が始まっている。2024年9月20日、マレーシア科学技術省(MOSTI)がAIガバナンスと倫理規定(AIGE)を発表し、利用のための基盤づくりにむけた第一歩を踏み出した。そして同年12月12日、国家AI事務局(NAIO: National AI Office)がデジタル省内に設置された。NAIOは発足初年度において、MyDIGITAL Corporationの監督下で、AIの研究、様々な産業分野・利用現場への導入、商業化を主導し、デジタル経済の強化と公共サービスの改善を目指すとしている。

マレーシアでは国家構想の初期から、科学技術イノベーション(STI)に経済(E)を加えた中期計画が立てられ、AIエコシステムに関しても、技術発展のみならず経済発展に強く資するものとして構築が期待されている。国家AI事務局の設置は、法規の整備と共に、同国がAI主導型経済の構築を進めるに際した重要な節目と言えよう。特に今回強調されたのが、AI技術の包摂性(inclusiveness)である。ゴビンド・シンデオ(Gobind Singh Deo)デジタル大臣は、最適な漁場のレコメンド、農地利用の最適化、自然災害の予防的管理などを例示し、「AIをあらゆる分野に導入...[中略]することで、誰も取り残されることなく(no one is left behind)、誰もがこのイノベーションの恩恵を受けられるようになる」と述べている。2025年以降も引き続き、マレーシアのイノベーションを通じた社会課題解決への道筋に注目していきたい。

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