スマート・ネイション構想第2弾を発表、信頼・成長・連帯が鍵 シンガポール

2024年10月10日 斎藤 至(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

シンガポールは「スマート・ネイション」を目指し、過去10年にわたり、行政・経済活動・市民生活のデジタル化を進めるとともに、デジタル・ツイン(バーチャル空間上における国家の完全な復製)を実現するなど、世界に先駆けた取り組みを相次ぎ打ち出してきた。10月1日、首相府より同構想の第2弾(以下、SN2)が発表された。本稿では過去の取り組みに沿って首相府発表を読み解き、今後の可能性を展望する。

スマート・ネイション構想とは、2014年に発表され、デジタル技術の強化を通じて市民生活の福利を高め利便性を達成する国家を目指す構想である。ローレンス・ウォン首相は声明にて、過去10年の達成を振り返り、市民生活および行政のデジタル化の進展を肯定的に評価した。キャッシュレス決済手段の使用やネット上の銀行口座開設は、今や市民の日常生活でごく当たり前になった。また直近の新型コロナウイルス対策において、先端的な情報通信技術による個人の精密な追跡は、高いワクチン接種率、迅速なオンライン診療予約システムを可能にした。

都市国家であるシンガポールは、スマート・シティとしても国際的に高い評価を受けている。スイス連邦工科大学ビジネススクール(IMD)の世界ランキング(Smart City Index)2024年版では、第5位にランクインしている。科学技術推進の5カ年計画である「研究、イノベーション、企業(RIE)2025」では、四つの戦略的領域のうち「アーバン・ソリューションと持続可能性(USS)」と「スマート・ネイションとデジタル経済(SNDE)」において、コネクテッド・シティ、サスティナブル・シティ、サイバーセキュリティなどの都市設計構想が重視され、研究開発投資の強化と博士人材の育成が共に進められてきた。

国家構想の第2段階に当たるSN2で、ウォン首相はAI技術の活用を要とみる。そして構想の柱を成すキーワードとして「信頼」「成長」「連帯」を挙げる。

  1. (1) 信頼:インフラの安全性・復元力の強化、利用者を心理的に傷付けるネット活動の抑止、信頼されるプラットフォームを通じた信頼感の拡張。「信頼」はAI技術を語るうえで今日最も重視されるキーワードでもある。
  2. (2) 成長:デジタル経済の強化、企業と労働者の支援強化、次世代に対する備え(デジタル・リテラシー習得のための教育システム拡充など)。ここで言う「成長」とは、科学技術による限界の突破と可能性の実現を意味する。
  3. (3) 連帯:包摂性の強化(誰一人取り残さない)、デジタル・ディバイド(アクセス可能性、スキルの有無)の解消。「信頼」におけるコミュニティ拡張とも重なるが、様々なギャップの特定と解消へ不断に取り組み、信頼性の維持に努めるとしている。

研究開発推進の面では、新たな「科学のための人工知能("AI for Science")」プログラムを立ち上げ、学際的・領域横断的な研究を支援するとしている。先行して2023年末には「国家AI戦略」第2弾(NAIS2.0)が発表されたところ、SN2はこれを経済社会との関係や全体的な国家戦略の中で根幹に位置付けるものと考えられる。AI技術の強化のみならず、シンガポールの国家としての更なる発展を今後も注視していきたい。

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