シンガポールの南洋理工大学(NTU)は5月27日、同大学が、研究と産業界との提携を通じて、イノベーションと起業家精神をどのように育んでいるかを説明した。
(出典:NTU)
NTUのイノベーション・エンタープライズ企業であるNTUitive社は、学生や卒業生、教員などへの支援を通して起業家を育成し、研究成果の社会実装を目指している。実際に、NTUの研究者らがウシガエル皮膚を原料に慢性創傷の治療を促進する臨床グレードのコラーゲンパッチを開発した際に、NTUitive社は地元の医療技術企業に独占的なライセンス供与を行った。これにより、研究者が研究に専念し、既存企業のビジネス経験を活かす形で製品化を進めることが可能になった。
他にも、NTUから独立し、アジアのトップ企業に成長した例として、ナノテクノロジーを活用した高度な材料と応用技術を提供するナノフィルム・テクノロジーズ・インターナショナル(NTI)社や、水質浄化のためにナノテクノロジーを使った膜を製造するナノサン(Nanosun)社が紹介された。前者は、シンガポール証券取引所に上場した初のローカルディープテックユニコーン企業である。2023年には、NTIとNTUが産業界と学術界を結びつけ、次世代のナノテクノロジー・ソリューションを開発することを目的とし、NTI‐NTUコーポレートラボが設立された。
研究成果の社会実装において、競争力の維持は不可欠であり、NTUでは大企業との産業提携を通して、この課題に取り組んでいる。例えば、世界的なクレジットカード事業者であるマスターカード(Mastercard)社とは、学生が研究以外にもサイバーセキュリティやデジタルトラストの分野でのキャリア形成を進められるトレーニングプログラムを提供している。
こうした、産官学が連携した共同研究は多様な専門知識と視点とが合わさり、研究成果の社会実装を加速している。その1つの例が、シンガポール能力尺度(SAS)の開発だ。NTUと傘下の国立教育研究所(NIE)やシンガポール教育省(MOE)、テスト発行元のGL Assessments社により共同で開発され、シンガポールの状況や規範に合わせた子どもたちの認知能力の正確な評価を行うものだ。
他にも、先進的な起業家人材育成のためのNTUアントレプレナーシップ・アカデミー(NTUpreneur)が運営されている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部