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中国の高等教育とイノベーション(第3回) 大学ガバナンスの変容と「ハイブリッド型統治」―中国の研究大学リーダーシップは何が変わったのか―

2026年09月17日

黄 福涛

黄 福涛:広島大学高等教育研究開発センター教授

略歴

専門は比較高等教育研究・高等教育国際化・研究大学論。
中国・日本・アジアを中心に、研究大学、大学教授職、科学技術政策と大学の関係に関する国際比較研究を行っている。

はじめに

 近年、中国の大学改革を論じる際、「大学の自律性は拡大しているのか、それとも国家による統制が強まっているのか」という問いがしばしば提起される。しかし、実際に中国の主要大学で起きている変化を見ると、この二つを単純な対立関係として捉えるだけでは十分ではない。

 世界大学ランキング、国際共同研究、研究成果の社会実装などをめぐる競争が強まる中、中国の大学にも、研究大学としての高度な専門性や経営能力が求められている。そのため、大学のトップには博士号、研究実績、海外経験、複数大学での勤務経験など、研究大学を運営するための専門的な資質が以前より重視されるようになった。

 一方、中国の大学では、共産党委員会を中心とする政治的な統治の枠組みが維持されている。大学リーダーの専門職化や国際化が進んだからといって、政治的な統制が弱まったわけではない。むしろ近年の特徴は、専門的・経営的な能力を高めながら、同時に政治的な統合を維持している点にある。

 筆者は、中国の研究大学のリーダーについて、2013年と2023年のデータを比較してきた。2013年の「211プロジェクト」に入っていた108校と2023年の「双一流」プロジェクト、いわゆる「世界一流大学・一流学科」育成プロジェクトに含まれている147校の主要大学を対象に、党委員会書記(以下、党書記)、党委員会副書記、学長、副学長などの経歴を調べたものである。

 なお、2013年と2023年では対象となる大学群が完全には一致しないため、以下の比較は同一大学群を追跡したものではなく、それぞれの時点における主要研究大学群の特徴を比較したものである。

 そこから見えてきたのは、単純な「市場化」でも「国家統制の強化」でもなく、複数の統治原理が組み合わされた「ハイブリッド型統治」である。本稿は、筆者が主に2026年に『Higher Education』および『Studies in Higher Education』に発表した研究成果をもとに、主要な知見を一般読者向けに再構成したものである。以下では、大学リーダーの10年間の変化を手がかりに、その特徴について考えてみたい。

中国の大学を動かす「二つのトップ」

 中国の大学ガバナンスを理解するためには、まず大学のトップが一人ではないことを押さえておく必要がある。中国の大学では、一般に党書記と学長が中心となって大学を運営している。

 制度上、党書記は大学の政治的・思想的方向、重要な人事、組織運営、国家政策との整合性などに大きな責任を持つ。一方、学長は教育、研究、学術組織、国際交流、大学経営など、学術・行政面の運営を担う。実際の意思決定は、両者が完全に分離して行うのではなく、党委員会や学長を中心とする行政組織などを通じて調整される。

 中国の大学改革を外から見ると、「政治」と「大学経営」が対立しているように見えることがある。しかし、近年の変化を見る上で重要なのは、どちらが一方を押しのけているかということではない。政治的リーダーシップと専門的・行政的リーダーシップが、どのように役割分担し、組み合わされているかという点である。

 とりわけ2017年以降、「双一流」プロジェクトが進められる中で、主要大学には世界水準の研究成果を上げることと、国家的な発展目標に対応することの両方が求められている。大学のトップには、学術的な正統性だけでも、政治的な信頼性だけでもなく、その二つを大学組織の中で結びつける能力が必要になっている。

博士号と海外経験―進むリーダーの専門職化

 この10年間で最も明確に変化したのは、大学リーダーの学術的・専門的な経歴である。

 まず博士号保有率が大きく上昇した。2013年には、党書記の73.2%、学長の82.1%が博士号を持っていた。2023年には、それぞれ88.5%、93.7%まで上昇した。とりわけ学長については、博士号を持つことが事実上標準的な条件になりつつある。

 これは単に「学歴が高くなった」という変化ではない。研究大学の運営には、研究評価、学士課程・大学院教育、学際研究、国際共同研究、大型研究プロジェクトなど、学術活動そのものに対する理解が必要である。大学リーダーにも研究者としての経験がより強く求められるようになったことを示している。

 専門分野にも変化がみられる。主要研究大学では、理工系を背景とするリーダーの比率が高い。2013年の「211プロジェクト」に属する非「985プロジェクト」対象大学では理工系出身者が47%を占めたのに対し、2023年の「双一流」対象大学のうち非「985プロジェクト」対象大学では64%であった。両時点で対象となる大学群は完全には一致しないため、厳密な意味での同一集団の時系列比較ではないが、2023年の主要研究大学、とりわけ非「985プロジェクト」対象大学において、理工系を背景とするリーダーがより大きな比重を占めていることが確認できる。旧「985プロジェクト」対象大学では、2023年にその比率は約70%に達している。

 海外経験も増えている。2013年には、海外で研究や学習を経験したリーダーはおおむね3~4割であったが、2023年には党系リーダー(党書記・党委員会副書記)で49.7%、行政系リーダー(学長・副学長)で54.5%となった。つまり主要大学のリーダーのおよそ半数が、何らかの海外経験を持つようになった。

 ただし、海外の大学で学位そのものを取得したリーダーは2023年でも8~9%程度にとどまる。多くの場合、海外経験とは長期の学位取得ではなく、研究滞在、共同研究、訪問研究などである。ここからは、中国の大学が国内で形成された人材を中心に据えながら、国際的な研究経験やネットワークを付加的な資質として重視していることが分かる。

大学間の移動が増えたことは何を意味するのか

 もう一つの大きな変化は、大学リーダーのキャリアが、一つの大学の内部だけで完結しにくくなったことである。

 2013年には、他大学での勤務や教育・研究経験を持つ学長は約39%、党書記は約44%であった。2023年には、それぞれ57%、62%まで上昇した。大学内部で長期間勤務し、そのまま管理職に昇進してトップになるという経路に加えて、他大学や行政機関などで経験を積んだ人材を登用する傾向が強まっている。

 この変化は、大学リーダーの選抜がより開放的になったことを示す一面を持つ。異なる組織を経験した人材は、他大学の運営方法、研究組織の構築、人事管理、国際化、政策実施などについて、複数の経験を持ち込むことができる。

 旧「985プロジェクト」対象大学以外の主要大学に注目すると、外部で教育・勤務経験を持つリーダーの比率は、2013年の対象群では45%であったのに対して、2023年の対象群では74%であった。両時点で対象となる大学群は完全には一致しないものの、2023年の主要研究大学では、外部経験を持つリーダーがより大きな比重を占めている。

 ただし、ここでいう「開放性」は、完全な自由市場型のリーダー採用を意味しない。大学間の移動や外部登用は増えているものの、トップ人事は依然として中国の政治・行政制度の中で行われる。したがって、より正確には、大学リーダーをめぐる全国的な人材市場が形成されつつある一方、その市場は政治的・制度的な条件によって方向づけられていると理解する必要がある。

専門職化は「脱政治化」を意味しない

 博士号を持つリーダーが増え、海外経験や大学間移動が重視されるようになると、中国の大学リーダーも欧米型の専門的な大学経営者に近づいているように見えるかもしれない。しかし、データは同時に強い継続性も示している。

 最も明確なのは政治的所属である。2013年も2023年も、党系リーダーはほぼ全員が中国共産党員であり、行政系リーダーについても2023年には約95%が党員であった。つまり、学術的な資格や国際経験が重視されるようになっても、政治的な信頼性はリーダー選抜の重要な条件として残っている。

 年齢とジェンダーについても変化は限定的である。2013年には、60歳以上が党書記の23.4%、学長の18.2%を占めていたが、2023年にはそれぞれ14.9%、12.2%へ低下した。一方で、2023年でも50歳代が党書記の52.8%、学長の56.4%を占めており、年齢構成が急速に若返ったとは言いにくい。

 女性の比率も、党書記では2013年の6.1%から2023年の9.8%、学長では8.3%から11.4%へ上昇したが、依然として低い。学術的な資格や国際経験という面では変化が大きい一方、年齢やジェンダーといった人口学的な構成については変化が緩やかである。

 したがって、この10年間の変化を「専門職化が進み、その結果として政治性が弱まった」と理解するのは適切ではない。実際には、専門性、研究能力、国際経験、組織運営能力が以前より重視されるようになる一方で、政治的な統合の仕組みも維持されている。

 筆者は、この特徴を「脱政治化を伴わない専門職化(professionalization without depoliticization)」と表現している。専門職化と政治的統制は、一方が強まれば他方が弱まるという関係ではなく、中国の主要大学では両者が同時に制度の中に組み込まれているのである。

「ハイブリッド型統治」とは何か

 ここでいう「ハイブリッド型統治」とは、国家統制と市場原理を単純に半分ずつ組み合わせるという意味ではない。

 中国の主要研究大学では、研究評価、国際競争、成果主義、専門的な大学経営など、世界の研究大学に広くみられる仕組みが積極的に導入されてきた。その一方で、大学の最終的な政治的方向や主要人事については、党を中心とする統治構造が維持されている。つまり、グローバルな大学経営の手法が、既存の政治的制度を置き換えるのではなく、その内部に組み込まれている。

 組織構造にもこの傾向が表れている。2013年と比べると、多くの主要大学では党委員会副書記の人数がやや減る一方、副学長の担当領域が拡大し、国際化、技術移転、学際研究など、特定分野を担当する専門的なポストが増えている。また一部の大学では、党書記と学長を同一人物が兼ねる形もみられる。

 これらは政治的統制の後退というよりも、統一的な政治的方向の下で、大学経営をより機能分化し、専門化しようとする動きと考えた方がよい。中国の大学ガバナンスは、従来の制度を全面的に置き換える「制度転換」ではなく、既存の枠組みを維持しながら、その内部に新しい管理手法を組み込む「適応的な近代化」を進めているのである。

 この点は、中国の大学が世界の研究大学に「収斂」しているという見方にも注意を促す。博士号、海外経験、成果評価、専門的経営など、外形的には国際的に共通する要素が増えている。しかし、それらがどのような権限構造の中で使われるかは国によって異なる。中国の場合、グローバルな大学経営の要素は、国家と党の統治を弱める方向ではなく、それと両立する形で選択的に取り込まれている。

党書記と学長の「組み合わせ」から見えること

 さらに、2026年7月に『Studies in Higher Education』に掲載された筆者の研究では、個々のリーダーの経歴だけではなく、党書記と学長という「二つのトップ」が、一つの大学の中でどのように組み合わされているかを分析した。

 2023年の「双一流」プロジェクト対象大学147校のうち、党書記と学長の双方について必要な経歴情報を確認できた132組、264人を対象に、専門的背景、国際経験、大学間移動という三つの側面から両者の組み合わせを調べた。その結果、大きく三つのパターンが確認された。

 一つ目は「一致型」である。党書記と学長の専門的背景や経歴が比較的似ている組み合わせで、全体の14.4%であった。共通の経験が多いことは、問題認識や組織運営の考え方を共有する上で一つの基盤となり得る。

 二つ目は「補完型」で、全体の53.0%を占め、最も多かった。例えば、一方が国際経験や研究実績に強みを持ち、もう一方が大学内部や政治・行政制度について豊富な経験を持つような組み合わせである。二人が同じタイプであることよりも、異なる能力や経験を組み合わせる形が多くみられた。

 三つ目は「分断型」で、32.6%であった。専門的背景や国際経験、キャリアの違いが大きく、明確な補完関係が確認しにくい組み合わせである。

 ただし、この三つの分類は、大学やリーダーの優劣を判定するものではない。「補完型」の大学の業績が高く、「分断型」の大学の業績が低いといった結論を、このデータだけから導くことはできない。重要なのは、リーダーの個人属性だけを見るのではなく、複数のリーダーがどのような関係を形成しているかを見ることである。

 特に「補完型」が半数を超えていることは興味深い。中国の大学では、党書記と学長に同じ経歴や能力を求めるのではなく、それぞれ異なる経験や専門性を持つ二人を組み合わせ、その間の調整を通じて大学を運営する形が広くみられることを示している。

 これは、中国のハイブリッド型統治を理解する一つの手がかりとなる。党書記と学長は、政治と行政という別々の領域を機械的に分担しているのではない。政治的要求と、教育・研究・国際競争などに関する専門的要求を、両者の関係を通じて調整していると考えることができる。大学ガバナンスは制度図だけではなく、リーダー間の「組み合わせ」と「調整」によっても動いているのである。

日本にとっての示唆は何か

 中国と日本では政治制度も大学制度も大きく異なるため、中国の仕組みをそのまま日本に当てはめることはできない。しかし、中国の変化から考えることができる問題はいくつかある。

 一つは、大学リーダーの「専門職化」を、単に学長の権限強化や経営能力の向上として捉えてよいのかという点である。

 中国の事例が示しているのは、リーダーの博士号取得、国際経験、外部登用、専門的な役割分担が進んでも、それだけで大学と国家の関係が一方向に変化するわけではないということである。リーダーの専門性は、必ず特定の制度や権限構造の中で発揮される。したがって、大学改革を考える際には、「どのような人を学長にするか」だけでなく、「その人が誰と、どのような権限関係の中で意思決定するのか」を見る必要がある。

 もう一つは、大学ガバナンスが世界的に必ずしも一つのモデルへ収斂していないことである。研究力、国際性、説明責任、専門的経営など、多くの国で共通して求められる要素は増えている。しかし、それらを国家、大学、学内専門職の間でどのように組み合わせるかは異なる。中国の事例は、グローバル化が進んでも、大学統治の制度的多様性が残ることを示している。

 さらに近年では、地政学的競争、研究安全保障、先端技術、人材獲得などが大学政策と密接に関係するようになっている。その意味で、大学の専門性と国家の政策的関与をどのように調整するかという問題は、中国だけに限られたものではない。中国の「ハイブリッド型統治」は制度的には独自性が強いものの、複数の要求を大学内部でどのように調整するかという問いは、他国の大学ガバナンスを考える上でも参考になるだろう。

おわりに

 2013年から2023年の10年間、中国の主要研究大学のリーダーは明らかに専門職化した。博士号保有者が増え、海外経験が広がり、大学間の移動も活発になった。大学内部でも副学長の担当分野が細分化され、研究大学を運営するための専門的な能力が以前より重視されている。

 一方で、政治的所属や党を中心とする統治構造には強い継続性がみられる。専門職化、国際化、経営の高度化は、政治的統制を置き換える形ではなく、その内部で進んでいる。

 したがって、中国の研究大学ガバナンスの変化を理解する上で重要なのは、「自律か統制か」「市場か国家か」という二者択一ではない。異なる統治原理が、どのような制度と人事の組み合わせによって共存しているのかを見ることである。

 党書記と学長の関係に注目すると、この点はさらに明確になる。2023年の132組を分析した結果、最も多く確認されたのは、二人の経歴が似ている「一致型」ではなく、それぞれ異なる強みを持つ「補完型」であった。これは、中国の研究大学統治が、単一のリーダー像をつくることよりも、政治的リーダーシップと専門的リーダーシップを組み合わせることによって運営されている可能性を示している。

 もちろん、こうした仕組みが研究大学の研究力、教育の質、組織の革新性にどのような影響を与えるのかは、リーダーの経歴データだけから判断することはできない。今後は、実際の意思決定過程、党書記と学長の役割調整、学部・研究科との関係などを具体的に検討する必要がある。

 中国の研究大学は、世界水準の研究大学を目指しながら、国家による統治を同時に維持している。この二つを単純な矛盾として捉えるのではなく、両者をどのように制度的・組織的に結びつけているのかを見ることが、中国の研究大学ガバナンスの現在と今後を理解する重要な手がかりとなるであろう。

参考文献

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