IITマドラス校 2024-2025年度 学生主催イベントのレポート

2025年3月24日

小林クリシュナピライ憲枝(こばやし・くりしゅなぴらい・のりえ):
長岡技術科学大学 IITM-NUTオフィス コーディネーター

<略歴>

明治大学文学部卒。日本では特許・法律事務所等に勤務した。英国に1年間留学、British Studiesと日本語教育を学ぶ。結婚を機にシンガポールを経てインドに在住。インドでは、チェンナイ補習授業校、人材コンサルティング会社、会計事務所に勤務後、現在は、長岡技術科学大学のインド連携コーディネーターを務めるとともに、インド工科大学マドラス校(以下IITマドラス校)の日本語教育に携わっている。IITマドラス校の職員住宅に居住している。

筆者が在住するIITマドラス校では、今年度も多岐にわたる学生主催のイベントが活発に開催された。その例を3点紹介する。

IITマドラス校の学期構成は、前期が7月末から11月末まで、後期が1月中旬から5月初旬までである。大学が位置するタミルナドゥ州チェンナイは、「Hot, Hotter, Hottest(暑い、さらに暑い、最も暑い)」と形容されるように、年間を通じて暑さが続く。こうした気候のため、比較的過ごしやすい10月から2月にかけて、多くのイベントが集中する。特に、学期の間の冬休み中には、Shaastra(シャーストラ)という5日間にわたる技術祭、そしてそれに続き、Saarang(サーラン)という、これも5日間にわたる文化祭が、学外に門戸を開き繰り広げられる。今年度の来場者は、技術祭が約7万人、文化祭が約8万人と、例年通り大規模なものであった。

技術祭の「シャーストラ」(1月3日~7日)

今年の技術祭では、自律型ドローンによる空中ロボティクス配送チャレンジ、ロボットサッカー、金融取引アルゴリズムの競技、未来都市サミット、さらには微生物学の知識を競うペトリディッシュ・チャレンジなど、様々な分野のイベントが開催された。

また今年は、一般市民、特に将来のリーダーとなる若い世代に向けて、IITマドラス校の多岐にわたる研究施設や学生活動を紹介することを目的に、 Institute Open Houseも開催された。このイベントに、各地から多くの高校生が訪れ、目を輝かせながら熱心に質問をしたり、真剣にメモを取ったりする姿が見られた。また、女子学生の来場が非常に多かった点が印象的であった。

来場者を歓迎するハードウエア・コンペティション・チームズ
(筆者撮影)

センター・フォー・イノベーションを訪れた高校生達と記念撮影
(筆者撮影)

ワークショップの説明を真剣に聞く学生達
(写真はIITマドラス校の提供)

文化祭の 「サーラン」(1月9日~13日)

技術祭に続けて行われる文化祭では、毎年、インド古典音楽や舞踊が披露されるクラシカルナイトをはじめ、ボリウッドアーティストなどによるポピュラーナイト、EDMナイト、ロックショーなど、多彩なパフォーマンスが繰り広げられる。また、様々な文化体験ができるワークショップやコンペティションも催される。

さらに、今年は、「ワールドフェスト」に、在チェンナイ日本国総領事館の協力を得て、日本から「ミニケストラ」のコンサートが実現し、インドの若者に絶大な人気を誇る日本のアニメソングを中心とした演奏が披露され、満場の会場を沸かせた。

在チェンナイ日本国総領事館職員とミニケストラメンバー

観客が会場を埋め尽くしたミニケストラの公演
(写真は在チェンナイ日本国総領事館提供)

また、同会場では、在チェンナイ日本国総領事館の広報文化班による、日本留学・観光情報のブースも設置され、多くの若者が足を止め、熱心に資料に目を通していた。

同館広報文化班による、日本留学・観光情報のブースを訪れる学生達
(写真は在チェンナイ日本国総領事館提供)

グローバル・ハイパーループ・コンペティション(GHC)(2月21日~25日)

IITマドラス校のハイパーループ学生チーム: Avishkar(アヴィシュカル)については、以前、2023年と2024年に、筆者のレポートで紹介している[1][2]。その後も着実に実績を積み重ねてきた。

同校のディスカバリーキャンパスには 420メートルの試験用チューブ が完成し、2月21日から25日にかけて、第1回グローバル・ハイパーループ・コンペティション(GHC) が同チームの主催で開催された。

IITMディスカバリーキャンパスに設置された420メートル試験トラック
(筆者撮影)

開会式には、インド鉄道省をはじめ業界の主要団体から多くの関係者が出席し、盛大に執り行われた。また、この学生チームのアドバイザーである サティヤ・チャクラヴァルティ教授(Prof. Satya Chakravarthy) が率いるハイパーループ・スタートアップ企業 TuTR(トゥートゥル)ハイパーループ は、ドイツの ミュンヘン工科大学(TUM)を含む複数の団体と 研究開発協力の覚書(MoU) を締結した。

さらに、技術セッションには、ヨーロッパから、ハイパーループ技術の先導企業2社が参加した。 Neoways(ネオウェイズ)社[3]は、TUMハイパーループ研究プログラムから独立したスタートアップ企業であり、また、スペインのZeleros(ゼレロス)社 [4] もこの分野で革新を進めている。これらの企業の技術者たちは、技術的な課題や解決策等について議論を交わし、参加した学生達の意欲をさらに高めた。

ミュンヘン工科大学や業界団体との技術協力覚書の締結(上)と、ヨーロッパからハイパーループのトップ企業2社による技術セッション(下)
(筆者撮影)

今回のコンペティションは、IITマドラス校主催としては第一回目ということで、現時点では、学生活動の枠内では、まだ真空チューブ内を走行できるレベルには達していなかった。各チームは、その進捗に応じた成果発表を行い、試作機を持つ大学は、チューブの外に設置したトラック上で、試作ポッドをリモート操作で走らせる試みにとどまった。来年の第二回大会に向けて、より高度な技術競争が実現できるよう、さらなる準備と研究が進められている。

参加学生による成果発表
(筆者撮影)

試作ポッドの内部の接続作業
(筆者撮影)

Avishkarチーム

ハイパーループテクノロジーは、高度な専門知識を要するうえに、極めて高リスクな技術でもある。そのため、実現・実用化には今後も相当な年月を要するのかもしれない。

しかしながら、学生たちはこの研究を通じて、環境負荷を軽減する技術や、他分野への応用など、さまざまな知見を得ているという。今後のさらなる発展を期待し、引き続き応援したい。

上へ戻る