インド科学技術省は4月11日、コルカタの都市部において、超微粒子状物質(PM2.5)の汚染濃度が約70µg/m3に達すると毒性が急上昇することを明らかにし、同地域における新たな「毒性基準」を導入したと発表した。研究成果は学術誌Science of The Total Environmentに掲載された。
PM2.5とは、直径2.5µm以下の粒子状物質であり、呼吸器疾患や循環器系の病気を引き起こすおそれがある深刻な大気汚染物質である。今回の研究では、PM2.5濃度と毒性(酸化ポテンシャル:OP)の非線形な関係を解明し、PM2.5の毒性が急激に増加する臨界値を70µg/m3と特定した。
研究は、インド科学技術省傘下の独立研究機関であるボーズ国立基礎科学研究所が主導し、同研究所は国家大気浄化計画(NCAP)の知識パートナーおよびコルカタ地域の中核研究機関として位置付けられている。研究チームを率いたアビジット・チャタジー(Abhijit Chatterjee)教授は、元博士課程学生のアビナンダン・ゴーシュ(Abhinandan Ghosh)博士、モナミ・ダッタ(Monami Dutta)博士と共に、PM2.5のOPを指標に、人間の肺細胞に酸化ストレスを与えるリスクを測定した。
その結果、PM2.5濃度が70µg/m3を超えるとOPが急上昇し、130µg/m3付近まで急激に増加することが判明した。130µg/m3を超えるとOPの増加は頭打ちとなるものの、すでに人体への悪影響が深刻であることから、政策的には70µg/m3を上限値とすべきであると提言している。
さらに、PM2.5の発生源分析には正行列因子分解法が用いられ、コルカタ上空の空気汚染の主因がバイオマスや固形廃棄物の焼却であることが明らかとなった。これは、NCAPが道路粉塵や車両排気、建設粉塵などの抑制には一定の効果を示す一方で、廃棄物の焼却対策が依然として不十分であることを示している。
チャタジー教授は「PM2.5の総量削減だけでなく、その毒性に注目することで、より実効性のある大気汚染対策が可能になります」と述べており、本研究は都市環境政策における新たな指標設定の端緒となることが期待される。
コルカタでのPM2.5と酸化ポテンシャルの関係
(出典:PIB)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部