2025年10月
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単一量子ビットで量子力学的ランダム性を実現 インド

インド科学技術省(MoST)は10月1日、ラマン研究所(RRI)が単一の量子ビットを用いた時間ベースの測定によって、量子力学的に保証された量子ランダム性(Quantum Randomness)を実現したと発表した。

本研究は、インド理科大学院(IISc)およびカナダのカルガリー大学との共同で行われ、クラウド上で利用可能な汎用量子コンピューターを用いて実証された。量子ランダム性の実現には、従来は空間的に分離した複数の量子粒子を使う複雑な実験環境が必要だったが、今回の成果により、特殊な光学装置を用いずにランダム性を生成できることが示された。

三つの研究機関の共同研究により、手軽に利用できる量子コンピューターで、物理法則に基づいたランダム性の保証が可能になった
(出典:PIB)

RRIの量子情報・量子計算研究室(QuIC)の責任者であるウルバシ・シンハ(Urbasi Sinha)教授の下、3年間で基礎検証から応用開発までを体系的に進めてきた。2022年には光子を使いレゲット・ガーグ不等式を強く破ることで量子力学の原理を実証し、疑義の余地を排除した光子アーキテクチャを構築した。2024年にはその技術を応用し、量子力学的に保証された乱数を生成する量子乱数生成器を開発した。

今回の研究では、空間的分離に依存せず、時間的に同一量子ビットを観測する手法を採用した。量子ビットを異なる時刻に測定することで、物理法則に基づく真の予測不可能性を実現した。生成された乱数は、時間相関によって保証された物理法則によって証明されたランダム性であり、商用利用可能でクラウドアクセス可能なIBM社の超伝導量子ビット・プラットフォーム上で初めて生成された。

IIScの博士課程学生ピンガル・プラティシュ・ナス(Pingal Pratyush Nath)氏は「このアプローチのシンプルさこそが強みです。現在の小規模でノイズの多い量子プロセッサでも、基本的なリソースとして認証ランダム性を提供できることを示しました」と述べた。

この成果により、量子コンピューターが特殊な問題の解決にとどまらず、安全な通信や暗号鍵生成などに応用できる道が開けた。特に、暗号技術で要求される推測不可能なデジタル鍵の生成において、量子力学的に保証された安全性を提供することが可能となる。さらに、この手法は量子ビットの精度検証にも活用できることから、量子ハードウェアの簡便で効果的な検証も実現可能だ。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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