2022年09月08日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)
尹錫悦政権の科学技術に関わる国政課題の最後の部分になるが、宇宙強国への強い意志が伺える。ヌリ号の発射で宇宙分野でのポテンシャルを示してきた韓国であるが、この勢いに乗って、目標としている世界7大宇宙強国になれるだろうか。
参考:
尹錫悦政権の科学技術に関わる国政課題~若干の解説を加えて~(上)
尹錫悦政権の科学技術に関わる国政課題~若干の解説を加えて~(中)
目標: 5G、6Gのネットワークインフラを強化し、ネットワークの安全性、サイバーセキュリティーへの対応力を向上させることで、安全かつ強いデジタル基盤を作る。 地域別・産業別のデジタル融合・イノベーションを加速させ、国家デジタル競争力を引き上げる。
(5G・6Gを先導) 農村地域を網羅する全国各地に5Gネットワークを普及(2024年まで)し、差別化された5Gネットワークと融合サービスの拡大で真の5G時代を開く。
・6G・衛星通信などの次世代技術イノベーションと、企業育成・人材育成などの産業基盤も強化する。
(デジタル国民安全を強化) つながる社会(hyperconnectivity)におけるネットワーク・SWのデジタル安全を確保し、主要安全管理のデジタル・知能化を通じ国民の生活安全を強化する。
(サイバーセキュリティーを強化) 2026年まで10万人のサイバーセキュリティー人材を育成する。安全保障クラスターモデルの地域拠点拡散を通じて企業の成長を支援する。
(デジタル認証を活性化) ブロックチェーン・生態認証などの新しい認証技術を導入し、ユーザーの利便性強化と新市場の創出を支援する制度を改善する。
(産業・地域のデジタルイノベーション) 経済全分野のデジタルイノベーションを加速させる総合支援体系を構築し、地域を跨ぐデジタルイノベーション拠点を作る。
・地域デジタル人材育成(ICTイノベーションスクエア)及び大規模プロジェクト(100大地域体験デジタルイノベーションプロジェクトなど)を通じで、デジタル新産業を育成する(2023年)。
(デジタルの普及と接近性) 国民がデジタルに接近しやすいようにデジタル問題解決センターを運営し、農村地域に超高速ネットワークを構築し、フリーWIFIを更に普及する。デジタル利用料金を軽減できるよう、若手、高齢者に対し必要な支援を行う。
期待できる効果: 6G標準の先占を目指し核心技術を開発し(2026年までに48件)、未来ネットワークの主導権を確保する。
・保安産業の育成を通じ(売上高2021年は12.6兆ウォン⇒2027年20兆ウォンを目指す)、産業競争力を強化する。
・地域デジタルイノベーション拠点の育成およびデジタルに詳しくない人々のデジタルレベルを引き上げる。
目標: 宇宙分野において競争力を確保し、民間中心の宇宙産業を活性化し、社会・経済発展を牽引する宇宙開発を進める。
・宇宙インフラを改善し、それを支える制度・政策を通じで、7大宇宙強国に挑戦する。
(ガバナンス強化) 宇宙先進国になるため、R&D、国家安保、産業化、国際協力など多様な分野において、専門性とリーダーシップを備えたガバナンスに改編する。
・他部署の政策を調整、民間の専門性を活動できる組織・機能設計を行う。宇宙産業の活性化のため、航空宇宙庁の新設を推進している。
(宇宙産業の活性化) 公共部門技術の民間移転を促進、企業参加拡大のための制度改善を通じてNew Space時代の民間宇宙レベルを強化する。
・国内宇宙産業の集結地域を中心に宇宙産業クラスターを指定し、育成する。宇宙産業クラスターに対し、宇宙開発インフラの構築、R&D人材支援などのサポートを強化する。
(独自技術) 次世代の発射体開発など独自の発射体を確保し、韓国型衛星航法KPSを開発し、宇宙開発分野での技術レベルを引き上げる。
・宇宙開発先進国と協力し、国内外の宇宙開発事業に積極的に参加する。
期待できる効果: ヌリ号の発射(2022年6月)3と月探索衛星タヌリの発射(2022年8月)を始めとする、韓国の宇宙開発領域の拡大。発射体、衛星、宇宙探査、衛星航法すべてが優れている世界7大宇宙強国になること。今の6大宇宙強国には、アメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパ、日本、インドが含まれる。
目標: 科学技術を基盤とする地域自生力強化で「R&D⇒創業/企業成長⇒新産業・仕事創出⇒経済成長⇒R&D再投資」の循環体系を作る。
(イノベーションレベルの引き上げ) 地方大学の基礎研究を活性化し、研究競争力を確保する。その地域の特徴に合わせた地域イノベーションプロジェクトを増やすことで、地方イノベーションに貢献する。
・地方が主導する核心技術R&D基盤中長期プロジェクトを推進する。
(オープン型融合研究を促進) 地域の産学官連携体系を構築し、空間上の集結を支援する。
・研究開発特区(広域特区、強小特区)の拡散とレベルの向上、研究産業振興団地を新規指定することで、拠点レベルで科学技術イノベーションと新産業の創出が期待できる。
解説: 韓国では、新技術を開発し、その成果で事業を展開するため、法律に従い、一定の地域を研究特区と指定するが、大徳、広州、大邱、釜山、全北研究開発特区が該当する。強小研究開発特区とは、大学・研究所・企業などが位置しているイノベーション拠点を中心とする小規模・高密度集約空間(TOWN)を指すが、ソウルの洪陵、仁川市の西区など12の地域が含まれる。地方における科学技術イノベーションはこれらの地域を中心に進むと考えられる。
(成長支援体系) 地域の科学技術シンクタンク機能を強化し、地域の特性を反映し、地域固有の科学技術発展戦略と育成方案を制定・実行する。
・自治体主導型、地域特徴別科学技術イノベーションを支える法的根拠を提供する。
(科学技術文化の拡散) 地域別の科学文化プログラムとインフラの拡大、科学文化ファンディングの支援を通じ、地域における科学文化の普及と接近性を高める。
期待できる効果: 優秀な科学技術人材・支援の地域定着を通じた自生的イノベーションと成長を実現する。
新政権が始まると国政課題が公開されるが、文在寅政権の際は、科学技術に関わる国政課題が経済分野に含まれ、独立したカテゴリーではなかった。その脈絡では、尹錫悦政権は科学技術を前面に出していると思われる。また、政府や民間の資源を集中して、第4次産業革命の核心技術の開発および核心技術を研究開発できる人材の育成に投資している。さらには、政府より民間を中心とした科学技術イノベーションを目指しているのも特徴といえる。先進国の追いかけから先導者(First Mover)になるという長年の目標は、尹錫悦政権で実現できるのか、今後の動きが注目に値する。