2023年11月8日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー)
韓国政府は10月、「第2次ベンチャー企業育成計画」を公開した。これまで、経済成長および雇用創出を目的に、2018年に第一次ベンチャー企業育成計画を公開。創業の活性化を目指し、2018年から金融機関による融資の連帯保証制度を廃止し、2022年11月まで、計85.8兆ウォンの金融支援を行ってきた。規制サンドボックス制度、特に、新技術の実証や臨時許可制度を活用し、新産業の成長を支えてきた。また、従来、公共機関が担当していたベンチャー審査権限を民間に移譲し、ベンチャーのスケールアップを促進した。
このような努力のおかげで、2023年7月基準のベンチャー企業の数は3.8万社、雇用人数は83.5万人に上った。政府の発表によると、83.5万人という数字は、4大グループ(サムソン、現代、SK、LG)の労働者数72万人を上回るものであるという。
しかし、国際情勢の変化等により、今年から金利の上昇や金融機関の危険管理体制強化が始まり、資金調達に難航するベンチャー企業が大幅に増加した。ベンチャー市場の冷え込みに伴い、人材のベンチャー離れも深刻となり、政府は今回の「第2次ベンチャー企業育成計画」の公開となった。
今回のベンチャー企業育成計画では、成長段階別の支援策を導入した。既存の支援額に加え、初期成長段階にある企業には6.1兆ウォンを、中期段階企業は1.9兆ウォン、後期段階にある企業には0.4兆ウォンを追加で支援するとした。
グローバルに活躍する企業が、他国に比べ少ない状況を改善すべく、韓国政府は、韓国人の海外法人設立を支援する法令を制定し、国内法人と対等な支援を受けられるように体制を整えるとした。
人材不足問題を解消するため、海外人材の誘致にも注力し、夏休み・冬休み等の期間中に、韓国でインターンシップが可能であるよう、ビザ制度を改善し、活動許可範囲を拡大するとした。発展途上国大学の在学生を対象に、ソフトウェア分野の教育カリキュラムを提供し、卒業後にスタートアップに就職する連携プログラム(K-Tech College)も今年から推進するとした。
なお、企業の競争力を強化するためには、成果達成を条件に、制限がかかっていた株の譲渡を可能にし、多様な外部専門家を活用できるように、ストックオプション付与対象も拡大した。これからは、学問の分野を問わず、大学や研究機関の研究者からベンチャー企業で経験を積みたいとの要望が伝えられた際は、休職・兼職を許可し、多くの人材がベンチャー企業で活躍できるよう、制度を改善した。
今回のベンチャー企業育成計画は、企業の海外進出及び国内外に向けての人材誘致が主要内容である。人材が活躍しやすい魅力的な条件を盛り込んだ新たな政策であるが、もう一度ベンチャーブームを引き起こせるのか期待が高まる。