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第18回アジア・太平洋研究会「世界転換期のアジアと日本」(2023年1月19日開催/講師:白石 隆)

日  時: 2023年1月19日(木) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 白石 隆 氏
JSTアジア・太平洋総合研究センター センター長、熊本県立大学 理事長

講演資料: 「第18回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 1.73MB)

講演録: [1] [2] [3] [4] [5] 質疑応答

講師:白石 隆

白石 隆(しらいし たかし)氏

JSTアジア・太平洋総合研究センター センター長、熊本県立大学 理事長

略歴

東京大学教養学部教養学科国際関係論卒業、コーネル大学大学院にて博士号取得。
東京大学助教授、コーネル大学教授、京都大学教授、政策研究大学院大学学長を経て、2018年より公立大学法人熊本県立大学理事長、2021年よりJSTアジア・太平洋総合研究センター センター長。
専門は、アジアの政治と国際関係、特に東南アジア地域研究。
2007年に紫綬褒章を受章、2016年文化功労者に選定、2017年インドネシア共和国最高功労勲章を受章。

第18回アジア・太平洋研究会講演録「世界転換期のアジアと日本」

[1] 講演資料 1-4

【黒木】 皆さん、こんにちは。お待たせいたしました。

それでは、定刻となりましたので、これより第18回アジア・太平洋研究会を始めさせていただきます。

本日は、視聴者の皆様方には、本研究会に御参加いただきまして、誠にありがとうございます。本日、司会進行を務めさせていただく、科学技術振興機構アジア・太平洋総合研究センター副センター長の黒木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

開始前に留意点をアナウンスさせていただきます。本日の講演は、オンラインでの中継により実施しております。万一の回線不良などにより、途中で終了させていただく場合がありますことを御了承ください。

約1時間の講演の後、質疑応答の時間を設けております。御質問などは、画面下にありますQ&Aボックスよりテキストチャットにて御記入ください。繰り返します。御質問がある場合は、画面下にありますQ&Aボックスよりテキストチャットにて御記入ください。いただいた質問などは、事務局で選定をした上で質疑冒頭の時間に、私より講演者に質問させていただきます。

なお、御質問は講演の時間中より受け付けております。途中でもお早めに御質問いただけますと、大変助かります。

また、弊センターでは、アジア・太平洋地域の科学技術情報を日本に向けてお届けするポータルサイトである「サイエンス・ポータル・アジア・パシフィック:SPAP」を開設し、この地域の科学技術情報を提供しています。皆様のアクセスをお待ちしております。本日の講演の概要、講演資料や動画もこの「サイエンス・ポータル・アジア・パシフィック:SPAP」のサイトで公開する予定でございます。

それでは、講演に移らせていただきます。本日は、私どもアジア・太平洋総合研究センターのセンター長を務められ、熊本県立大学理事長でもある白石隆先生より御講演いただきます。講演タイトルは、「世界転換期のアジアと日本」です。

御講演では、2008年の国際金融危機、2020年以来のパンデミック、2022年のロシアのウクライナ侵攻といった出来事のショックで世界が大きく変わりつつあると意識され、日本を含め多くの国で大戦略に関わる重要な決定がなされつつある状況について、まずお話しいただき、その上で、それでは、こうしたショックと主要国の決定で、世界は今どう変化しつつあるのか。科学技術政策・経済安全保障政策は、そこでどんな位置づけを占めているのかについて、御講演いただく予定でございます。

講師の白石隆先生は、東京大学を卒業され、コーネル大学大学院で博士号を取得されております。その後、東京大学助教授、コーネル大学教授、京都大学教授を経て、アジア経済研究所所長、内閣府総合科学技術会議議員に就任され、2011年から2017年まで政策研究大学院大学の学長を務められています。その後2018年より、公立大学法人熊本県立大学理事長に就任され、また、JSTアジア・太平洋総合研究センター、当センターでございますが、発足いたしました2021年の当初よりセンター長に就任され、現在に至っております。

御専門は、アジアの政治と国際関係。特に東南アジア地域研究でございます。2007年に紫綬褒章を受章され、2016年に文化功労者賞に選定され、2011年にインドネシア共和国最高功労勲章を受章されています。

それでは、白石先生、御講演よろしくお願いいたします。

【白石】 今、御紹介にあずかりました白石です。

これから「世界転換期のアジアと日本」というタイトルで、1時間程度お話しさせていただければと思います。

最初に、今、何が問われているかということですが、アメリカのバイデン大統領は「世界の転換期」と言っております。ドイツの首相も同じように「世界転換期」という言葉を使っております。岸田総理は「未曾有の国難」という言葉を所信表明演説の中で使われております。

どうしてこういう言葉が使われるようになったのか。この15、6年の間にいくつか大きなショックがありました。1つは2008年の世界金融危機で、それ以降、グローバル化、あるいはグローバル主義の終わりということが言われています。また、米中対立の激化ということで、新冷戦という言葉もトランプ大統領の登場以来、2017年ぐらいから言われるようになりました。さらに、昨年2月に起こりましたロシアのウクライナ侵略で、帝国主義の復活のようなことも言われるようになっております。

私は世界の構造をごく単純に、世界的・地域的な富と力の分布の変化という観点から考えておりますが、こういう意味は、構造はこの20年で大きく変わっております。

したがって、いま振り返って、構造的に特に不可解なことはありませんが、同時に、世界金融危機にしても、米中対立にしても、あるいはロシアのウクライナ侵略にしても、こういうことが起こるだろうと想像していた人はほとんどいなかったわけで、その意味ではそのたびに大きなショックが起こって、多くの人々の考え方もシフトした、そしてそのプロセスで構造的変化が政治のレベルで現象化してきたと言えるのではないと思います。今日はこういう観点から一度、立ち止まって、ポスト冷戦時代を振り返り、考えを整理してみたいということです。

バイデン大統領は、昨年、現在の世界的な対立を民主主義と専制という軸で整理しました。しかし、これは、バイデン政権の政治的アジェンダとしてはともかく、世界政治の分析の役には立たない。私はむしろ、20世紀システムの変容といった形で考えた方がよいだろうと見ています。ポラニーは第二次大戦中に19世紀システムは終わったと言いました。それに倣って言えば、20世紀システムとでもいうべきものが今終わりつつある。あるいはもっと正確に言えば、縮小し、見直しが起こっている、と言えるのではないかと思います。

では、20世紀システムとは何か。ごく簡単にいえば、安全保障では「アメリカの平和」、国際経済では「ドル本位制と自由貿易」、これはもともと金ドル本位制だったわけですが、1970年代に変容して、ドル本位制になり、また、GATTは1990年代にWTOを基本とする自由貿易体制になりました。これが国際的なシステムです。一方、国内的には自由民主主義と市場経済が柱になっている。このように国際的に政治と経済の2つの柱、国内的にも政治と経済の2つの柱からなるシステム、これが、今、危機に陥っていて、それが自由主義的国際秩序の危機という形で、今、語られていると思います。

ただ、多くの人が指摘している通り、では、これに代わる何か新しい21世紀システムのようなものが、例えば中国によって提案されているか、あるいは、生まれつつあるかといえば、そういうものはないわけで、私としては、20世紀システムがこれで崩壊してしまうとは思っておりません。むしろ、グローバル主義の名の下に、アメリカの平和の下、国境を越えた資本移動の自由と通商の自由を一挙に世界全体に広げようとしたプロジェクトが失敗に終わったと考えたほうがいいのだろうと思います。

では、どうしてそう考えるのかということです。まず大きな趨勢、これはみなさん御存じのことですが、大きくまとめると、3つあると思います。1つはG7に代表される先進国が地盤沈下して、途上国の中から新興国が登場してきた。中国だけではありません。世界全体で15カ国程度でしょうか、新興国と言われる国が台頭してきた。もう1つ、欧米が地盤沈下してアジアが台頭した。そしてさらにもう1つ、アジアでは日本が地盤沈下して中国が台頭した。また、これからはASEAN諸国とインドがもっと成長するだろう。この3つの趨勢で、この趨勢がこれからも続くのか、続かないのか、もちろん分かりませんが、これから先の世界を考えるには決定的に重要だと思います。

これをデータ的に確認したのがこの表で、ハイライトしたところだけ見ていただければ十分ですが、2000年にはG7で世界経済の65.6%のシェアを持っていた。つまり、世界経済の3分の2をG7だけで占めていた。そのすぐ下のラインにEmerging Economiesとありますが、これは当時の言葉ではDeveloping Economies、途上国、これは世界経済の20%程度のシェアを持つにすぎなかった。これは2000年にも変わりません。

しかし、2021年あるいは2022年までにはG7のシェアは45%ぐらいまで落ちてきて、Emerging Economiesが40%ぐらいになってきている。新興国の台頭は世界経済に占めるそのシェア1つ見ても明らかと思います。

次に地域で見ると、2000年には北米、North AmericaとEU、これはヨーロッパと同義で使っておりますが、両方合わせると大体60%でした。それが2021年になると45%を切るところまで下がってきている。どこが伸びたかというと、Indo-Pacificが伸びていて、34.4%、もうすぐ35%を超えてきます。

その中で、日本は2000年にはそれ以外のIndo-Pacificの国全てを合わせたより経済規模が大きかった。しかし、2021年には中国が他の全てのインド太平洋の国を合わせたより大きくなってきている。念のため、ロシアはどの程度の経済規模かと言いますと、2021年で1.7%、韓国よりも小さい。なお、このデータは全て名目GDPを経済規模の指標として使っております。


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