インドIT人財②「コロナ後に優秀なインド人留学生を呼び込む3つの条件」

2021年7月2日

松島大輔

松島大輔(まつしま だいすけ):
金沢大学融合研究域 教授・博士(経営学)

<略歴>

1973年金沢市生まれ。東京大学卒、米ハーバード大学大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省後、インド駐在、タイ王国政府顧問を経て、長崎大学教授、タイ工業省顧問、大阪府参与等を歴任。2020年4月より現職。この間、グローバル経済戦略立案や各種国家プロジェクト立ち上げ、日系企業の海外展開を通じた「破壊的イノベーション」支援を数多く手掛け、世界に伍するアントレプレナーの育成プログラムを開発し、後進世代の育成を展開中。

参考:
インドIT人財① "DX先進国" インドと連携、日本は「ビヨンドコロナ・イノベーション」に活路

前回までにインドのIT人財とは、単なるIT技術者としてのインド人ではないという話を書いた。では、そのような優秀なインドのIT人財は本当に日本を目指すだろうか? 日本人にとって、インドは良い意味で異質な文明という意識が強い。かくいう著者も、仕事で駐在する前、2006年に初めてインドを訪問した時、最初のインドの印象は実に、日本とも中華文明とも、また西欧文明とも全く異質なものに触れたという衝撃であった。恐らくインド人にとっても、日本に対してそのような印象を持つことが想像される。2021年2月、突然、訃報が飛び込んできた。「インド=日本ゴルフカップ(INGC:INDO-NIPPON GOLF CUP)」の創始者で、日印の懸け橋としてご活躍されたシャルマ(Rafhul Sharma)さんがお亡くなりになった。生前何度かご指導頂き、著者がタイに駐在中もわざわざバンコクの自宅を訪問いただき、夜通し日印関係の今後について話し合った。インド人と付き合いは、宵っ張りになることが多い。20:00頃に食事の約束をすると、一通りお茶をしながら議論に花を咲かせ、24:00になるころにようやく夕食が出てくることもまれではない。その真骨頂がインドの結婚式の正典で、招待状には17:00開始でも、皆さんが集まり始めるのが19:00となる。新郎と新婦が登場するのが24:00で、クライマックスは午前3:00頃になるのが通例である。

このシャルマさんがよくおっしゃっておられたのが、「日本人は、人類史上もっとも勇敢な民族だ。アフリカ地溝帯から出発した人類の祖先のうち、果敢に東の果てまで東進した集団であり、進取の気性があるに違いない」という見立てであった。日本人に対する愛のある鼓舞激励が込められた言葉と受け取っているが、果たして今の日本人はその進取の気性を取り戻しているだろうか、常に反省して行かなければならないと思っている。シャルマさんのように、親日的なインド人、或いはイメージとしての親日的インド人は多い。2006年当時、タージマハルを訪問すると、必ず少なくとも2~3組のインド人の団体旅行客から、「日本人か、一緒に写真撮ってくれ」という、日本人というだけで尊敬されたものである。ちなみに著者は人生で17回タージマハルに行っているが、日本からのお客様をお連れして、大変誇らしげに思ったものである。古い人は日露戦争で世界史上初めて白人に伍して戦った話、戦後の奇跡の復興、SonyやPanasonicに代表されるメイド・イン・ジャパンの衝撃...がその理由であり、ある意味先達の遺産を食いつぶしているようで、これまた今後の日本が進むべき未来に対する反省的な契機となる。事程左様にインド人にとっては、日本は、蓋(けだ)し肯定的なイメージの国といえる。

イメージ以上に最近は、日本の生活環境について、関心を持っていただくインド人も多い。デリーやグルガオンの乾燥したヒンドゥスタン平原に生活した人なら感覚的に理解できるが、このようなステップ気候では、青々と茂る草木、森林、自然に対する渇望は一様ならないものがあるだろう。3年ほど前、インド工科大学(Institute of Indian Technology:IIT)デリー校を訪問した際に、大気汚染が深刻化し、PM2.5で、全インド医科大学との医工連携プロジェクトの一環として、鼻腔の汚染による呼吸器疾患を防ぐための商品を開発した鼻に装着するバンソコウのような製品を頂いたのを思い出す。このような大気汚染が厳しいインドと比べ、日本は空気がきれいで、四季折々の自然のなかで生活できることは貴重である。特に日本の地方は、都市に比べ、大変ポテンシャルがあるというわけである。

もうひとつ、やはり教育環境がインド人を引き付けるポイントとなる。インド人留学生をどう取り込むか、これは日本の人財戦略にとっても最大の課題である。2018年に東京大学インド事務所の吉野宏所長(当時)のお導きで、ハイデラバードで開催された高校生向け説明会に参加させていただいた。その際、日本の大学に留学したいという学生が何名集まったか、皆さんは当てられるだろうか?

ハイデラバード・インドの高校での日本の大学紹介ワークショップ(2018年10月)
写真提供:吉野宏氏

答えは、この写真が如実に物語っている。なんと!1200名近くが参加したのである。この当時は、米国トランプ政権下であったため、米国への留学を断念せざるを得ない学生などが参加したという背景もあったが、高校生にとっても、日本という選択肢もあることが見直されたのでないかと考える。コロナ禍で世界同時に、完全に往来が止まってしまったが、コロナ終息後にインドとの連携は視野に入れる選択肢となるだろう。著者は、これまでインド人教員の受け入れやインド人留学生の受け入れを応援したが、いくつか問題を整理する必要があると痛感している。

第1に、言語の問題である。日本の大学は英語での授業について整備するのが難しい。これに対し、やはりインド人留学生が英語で授業を受けられる体制、せっかくIT人財を擁する教育・研究機関であれば、そのようなIT技術を活用して、自動翻訳や授業の自動字幕設定など、いくつか技術との掛け合わせを実践してもよいだろう。

第2に、日本の大学環境では、授業料や生活費などを考えると、日本での生活をもっと魅力的なものにできる可能性がある。せっかくのIT人財の「金の卵」にもかかわらず、居酒屋でバイトしてもらうのはもったいない。プログラミングなどの仕事を出すなど、仕事を回してあげることで、大学に所属して稼ぐことができる仕掛けが不可欠となるだろう。留学生については、在留条件としてアルバイトの時間などの制約があるので、こうした単価の高い仕事を、教育や研究の一環として提供できる体制を真剣に考えるべきである。「稼ぐ留学」が可能であれば、日本に目を向ける、特に優秀なインドのIT人財も増えるだろう。日系企業向けの遠隔でのインターンシップなどを絡めることでさらに安定的な収入を提供できるだろう。実は地方であれば、さらに生活費などでも、東京などの大都市と比較して大いに節約できる可能性がある。以前、留学生と連携して地方での滞在が東京に比べてどの程度生活費の節約になるかを調査したことがあるが、おそらく地方での生活は、首都圏に比べ、半分とは言わないが70%~60%の節約になる可能性がある。つまり、コロナ禍終息後、地方にインド人留学生を呼び込むチャンスである。

最後に、インド人学生の生活環境の提供も注目すべきかもしれない。以前には、よくインドと日本の食文化が大きく異なり、ベジタリアン向けの食事などで問題があったが、地方などでも本格的なインド料理店が増えつつある。大学や自治体などの支援が不可欠であるが、これらを先んじて地方で整備すれば、のインド人留学生を受け入れる戦略にもつながる。コロナ後の時代を見据え、留学生、研究者、従業員など、インドIT人財を面的に受け入れ環境の整備を進める必要があるだろう。