2021年10月15日
坪井 務(つぼい・つとむ):
名古屋電機工業
新事業創発本部SATREPSプロジェクト
プロジェクトリーダー(博士)
<略歴>
1955年静岡県生まれ。79年日立製作所入社、重電モーター設計に従事し、87年半導体事業に異動、弱電技術最先端に専門を移す。97年日立アメリカに出向、米国のシリコンバレーの空気に触れる。2000年半導体事業部に帰任し、自動車分野での半導体開発を担当。03年ルネサステクノロジーに出向、10年日立製作所スマートシティ統括本部でスマートシティ事業従事。両親の介護の関係で12年浜松地域イノベーション推進機構に、14年名古屋電機工業に入社。
今回のテーマは、前回紹介した地域行政と実施した第2回目のワークショップ後における話題となる。特に現在も続いているコロナ発生後の1年間2020年度における世界的な制限下における活動に焦点を当てることにする。
前号紹介したアーメダバード市行政担当のAhmedabad Municipal Corporation(AMC)との第2回ワークショップも2020年2月4日に成功裏に終えることがで、2月8日にアーメダバード市より日本に帰国した。そして、本件に関し以前よりご指導・支援を頂いていた総務省に報告をすることにしていたため、担当者との連絡を開始した。この時点ではわからなかったのであったが、東京にて〝インフルエンザ〟が発生したため2月第3週に予定していた総務省訪問を延期し、様子をみることになった。ところがインフルエンザと思われた流感が一向に収まる気配がなく、何か尋常ではないことが起きている状況に、ただただ見守るのみで報告の機会も見ている状況であった。
その間、インド工科大学で実施した研究活動情報交換会とそれに続くアーメダバード市で実施したワークショップの報告書をまとめ、その後に予定されている科学技術振興機構(JST)主催の中間フォローアップ会議に向けた準備を進めることとなった。そうこうしているうちに、3月に入り東京で発生したと思われたインフルエンザは、実はこの後に1年以上も続くコロナ感染であることが世界から発信され、ついには世界保健機関(WHO)から感染症が世界的規模で同時に流行する「パンデミック」のアナウンスとともに、コロナと呼ばれる(後にCOVID-19と命名)世界規模流行のインフルエンザの登場であった。COVID-19の詳細は別の専門レポート等に譲るとして、話題を地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)に戻す。
2020年3月以降、活動に急ブレーキがかかり、インド工科大学ハイデラバード校(IITH)教員たちとも連絡も難しい状態となり、ついにはインド国内では都市封鎖「ロックダウン」が発令され、大学封鎖状態になった。その間、国内の大学研究機関でも同様に学生、教員の登校に制限がかかり、研究活動が一時的に停止状態に陥ることになった。筆者も会社への出社制限がかかることになり、今では当たり前に使われる単語となった「在宅勤務」の状態となった。大変苦しくもあり、つらい時間を費やすことになってしまった。結果、これまでのインド工科大学および日本大学の研究メンバーとのミーティングもオンライン会議となり、現在もそのまま継続している状況にある。
オンラインによるSATREPS全体会議
また、本ワークショップには、プログラムを管理推進する科学技術振興機構(JST)のデリー代表と、国際協力機構(JICA)デリー責任者ならびにインド工科大学にてプログラムを現地で支援する現地調整員の参加も頂いた。会場にはSATREPSを紹介するポスターも合わせて展示することで、その場を盛り上げることができた。ここで救いとなった出来事がある。それはかねてより在印日本大使館から打診があった開発協力白書(いわゆるODA白書)2019年度版として、本インドのSATREPSが取り上げるというニュースを頂き、白書に向けた原稿およびその校正や対応をすることになり、めでたく2020年5月12日付で外務省ホームページに掲載頂ける運びとなった。以下に、本プログラム紹介の抜粋を示す。
紹介は白書「匠の技術、世界へ」のコーナーにおいて、「エネルギー低炭素社会実現を目指したインドにおけるスマートシティの構築に向けて~日本とインドのアカデミアにおける協働~」として紹介頂ける運びとなり、大変名誉なこととなった。また、本白書の英文版も、後に英語版のODA白書への展開も頂けることとなり、こちらも2021年3月17日付で外務省ホームページに掲載頂けた。
外務省 開発協力白書(外部サイト):
和文版 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/press/shiryo/page25_000299.html
英文版 https://www.mofa.go.jp/policy/oda/white/2019/html/techniques/03.html
2019年度版開発協力白書から
英文の白書の印刷版に関して、後にインド大使館東京勤務の公使へ直接筆者が手渡しする機会を得たため、2020年12月に入って大使館訪問を行い、公使との意見交換とコロナ禍における本プログラムのサポートをお願いし、その後も継続支援を頂けることとなり、現在に至る。また、公使とは偶然にもご出身がグジャラート州であること、そして経済担当ということで本プログラムでの実証試験を展開しているアーメダバード市に対しても、色々親身になるアドバイスを頂くとともに、前回紹介したインド地方行政の2年から3年の任期による交代に関しても、AMCの新コミッショナーへの紹介まで支援を頂き、現時点においても大変お世話頂けている。公使からの要請で、SATREPSの共同研究機関として頑張っている日本大学との教員との面談を行いたいとのたっての要請があり、2021年3月18日に同行、船橋キャンパスにて意見交換を実施することがかなった。
インド大使館で白書を手渡す筆者(左) 在日インド大使館公使の日本大学表敬訪問(右)
コロナ禍での活動は、インターネットの普及と技術革新により会議自体はできるものの、じかに会っての会議による情報交換と比べ、やはり情報共有さらには一体感には欠けるのは否めない。一方で、すべてが悪いばかりではなかったのも事実である。それは外出制限や在宅勤務のお陰で、これまで収集した交通データの解析・研究する時間が増えたことによる論文数が、全研究機関で増えたということである。2020年度におけるプログラム全体での査読付き論文数は総数34件と大幅に増加させることができた。インド大使館公使ともこうした緊密な関係を持てたこと自体も、コロナ禍であったが故の結びつきになったともいえる。更には、AMCの副コミッショナーとも数えるとオンラインミーティングではあったものの、計22回にわたる回数にもなった。また、2020年度は日本人研究員のインド渡航や、インド工科大学ハイデラバード校の研究員の日本への渡航は一度もできなかったが、現地実証試験を行わなければならなかったアーメダバード市への、ここも公使のお取り計らいで地方行政AMC経由、現地で都市工学を専門に解析や調査を行っているCEPT大学(Centre for Environmental Planning and Technology)の教授への紹介と支援への対応を付けて頂いたもの公使のお陰であったことも付け加える必要がある。このように本来であったならなかなか容易には関係構築が難しいと思われたことも、コロナ禍での困難な時期を何とか乗り切ろうとする日印の強力な協力があったから可能になったと思える。
次回以降は、研究活動の中でもインド交通解析において興味深い結果となり、いくつかの学会でも紹介し、話題となった内容に関して2回に分け、分かり易く紹介することで、本インドコラムを締めくくることにしたい。