2023年04月
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ペロブスカイト太陽電池を鉛フリーで安定化させる新技術開発 シンガポール

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は2月24日、NTUとシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)の研究者らが、鉛を使わず無害な金属をベースとしたキャッピング材料(capping material)を使用して、ペロブスカイト太陽電池を製造する方法を開発したと発表した。研究成果は学術誌 Nature Energy に掲載された。

ペロブスカイト太陽電池は性能、効率に優れ、製造コストも安く、シリコン太陽電池の代替品として期待されている。一方で、電池に含まれる微量な鉛が環境を汚染することが懸念されている。NTUとA*STARの材料科学工学研究所(IMRE)の研究者らは、鉛を使用しないキャッピング材料によるペロブスカイト太陽電池作製の研究を行った。

ペロブスカイト太陽電池は、光を吸収し発電するペロブスカイト層とその上層の太陽電池を保護し、性能を向上させるキャッピング層で構成されている。通常キャッピング層はハーフプリカーサー(HP)法と呼ばれる方法で作製され、ペロブスカイト層に存在する鉛イオンと反応し、鉛ベースの化合物で形成される。

研究者らが新たに開発したフルプリカーサー(FP)法では、キャッピング材料として亜鉛ベースの化合物を使用することで、鉛を含まないキャッピング層を形成することが可能である。電子顕微鏡と分光法を用いて亜鉛ベースのキャッピング層(zinc-based capping layer)を調べたところ、電気特性に影響を与えず、集光機能を向上させていることも明らかになった。光エネルギーの変換効率も24.1%と、これまでのペロブスカイト太陽電池やシリコン太陽電池の最高効率に近い結果を得られている。

(左) 亜鉛ベースのキャッピング層 (緑) を含むペロブスカイト (青) の分子構造。
(右) 研究者が亜鉛ベースのキャッピング層をペロブスカイト層にコーティングするために使用した FP プロセス

亜鉛ベースのキャッピング層を製造するために、研究者は化学物質を溶解し、グローブボックス内で溶液をペロブスカイト層にコーティングした。グローブボックスは、ペロブスカイトがコーティングされる前に、環境中の酸素と湿気からペロブスカイトを保護する

研究者は真空蒸着システムを使用して、ペロブスカイト太陽電池の残りの層を合成した。これは、ペロブスカイト太陽電池の製造に一般的に使用される方法だ

(左) 研究者が作製した亜鉛ベースのキャッピング材料で覆われたペロブスカイト太陽電池のさまざまな層を示す図。
(右) 緑色の点線の長方形は、太陽光を捉えて電気に変換するペロブスカイト太陽電池の活性領域を示す
(提供:いずれもNTU)

本研究の主任研究者の1人であるNTU物理・数理科学研究科のイェ・セニュン(Ye Senyun)博士は「ペロブスカイト太陽電池の最大の欠点は、鉛を含むことによる環境に対する影響だ。私たちの技術革新はペロブスカイト太陽電池の普及に貢献するだろう」と話す。また、NTU材料科学・工学部長のラム・イェンミン(Lam Yeng Ming)教授は「化石燃料が急速に枯渇している中、今回の技術革新はペロブスカイト太陽電池による太陽エネルギー利用を促進する可能性がある」と期待を述べた。

研究者らは現在、FP法のスケールアップにより、フルサイズの太陽電池作製に取り組み、特許申請も進めている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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