再創業支援型インターンシップと産学融合のすゝめ⑦~北陸とインドの連携強化に向けて~

2022年04月14日

松島大輔

松島大輔(まつしま だいすけ):
金沢大学融合研究域 教授・博士(経営学)

<略歴>

1973年金沢市生まれ。東京大学卒、米ハーバード大学大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省後、インド駐在、タイ王国政府顧問を経て、長崎大学教授、タイ工業省顧問、大阪府参与等を歴任。2020年4月より現職。この間、グローバル経済戦略立案や各種国家プロジェクト立ち上げ、日系企業の海外展開を通じた「破壊的イノベーション」支援を数多く手掛け、世界に伍するアントレプレナーの育成プログラムを開発し、後進世代の育成を展開中。

参考:再創業支援型インターンシップと産学融合のすゝめ⑥~なぜ日本からGAFAM/BATHが生まれないのか?~

北陸先端大に駐日インド大使来訪

蔓延防止等特別措置が12都府県に指定されるなど新型コロナのオミクロン株の感染拡大が心配されていた中、2022年1月19日、在東京インド大使館のサンジャイ・クマール・ヴァルマ(Sanjay Kumar Verma)大使閣下を石川県にお招きすることになった。このところ何年かは暖冬の続く北陸地方だったが、この冬は交通に支障を来すほどの積雪に何度か直面しており、当日も大雪に見舞われた。

会場となった北陸先端科学技術大学院大学(JAIST、以下「北陸先端大」。)は、大学院大学として1990年10月に開学したところであり、霊峰白山の麓に広がる研究拠点である。実はこの北陸先端大学は、インドとは大変関係が深い。2014年度の文部科学省が提供する「大学の世界展開力強化事業」において、北陸先端科大の「インド等の海外で活躍できる知的にたくましい先導的科学者・技術者の育成」が採択された。現在の外国人留学生国籍別在籍状況を見ても(2021年5月時点)、インドからの留学生は第4位と、中国、ベトナム、タイに続いている。既にインド理科大学院大学(IISc:Indian Institute of Science)、インド工科大学(IIT:Indian Institutes of Technology)のガンディナガール校、デリー大学などと交流を進めており、2014年から2018年までに延べ119人のインド人留学生を受け入れた実績を有する。

鉄道の正確な乗り換え接続に感激

北陸先端大が連携を進めておられるインド理科大学院大学には前職の長崎大学の関係で何度か訪問させていただいたが、ベンガルール(Bengaluru:旧バンガロール)に位置し、研究には最適な気候と瀟洒な建物が並ぶ大学である。著者が進めてきたアントレプレナー研究や教育プログラムで大変お世話になったところである。インド駐在当時の2006~2010年に何度かバンガロール(当時)を訪問して日印の主に政府間協力やビジネス案件形成を進めてきたが、特にインド経営大学(IIM:Indian Institutes of Management)やインド国立法科大学(NLSIU:National Law School of India University)に足しげく訪問させていただき、それぞれの大学で著者も特別講義を担当したのを記憶している。インド経営大学では、インドへの日本の新幹線の売り込みに先立ち、いろいろ示唆を頂戴したのを覚えている。当初先方の関心は、新幹線の技術的な優位性や安心・安全の運行管理に向くのではないかと思っていた。しかし実際に先生方を日本にお連れした際、日本の鉄道における定時制を前提とした鉄道の乗り換え接続の妙に感激し、また当時本格化してきた日本の駅ビル・エキナカ事業に大変関心を持っていただいたのには驚かされたものである。

またインド国立法科大学のほうは、知的財産法の権威ラーマクリシュナ(Ramakrishna)先生にご指導をいただいたものである。ラーマ・クリシュナ先生については、当時筆者が特許庁に頼まれて南アジアの現地担当をさせていただいた際、日本にお連れしてインドの知的財産状況をご講演頂いた。京都では、精進料理(「インドあるある」であるが、インドの方をおもてなしする際は、ベジタリアンであるため日々の食事に大きな制約がある)の盛り付けのなかに世界観を見た、と興奮しておられたのが強く印象に残っている。

インドと北陸のアカデミックな連携については、北陸先端大の浅野哲夫前学長がインドとの連携に率先的に取り組んでこられた成果である。日本の大学のなかでもこれだけのインド人留学生を受け入れてきた実績は突出しているものと思われる。浅野氏には筆者が海外駐在当時にお目にかかり、インド案件について意見交換させていただいたが、北陸先端大が取り組んできた日印の協働教育は、インドの学生にとっても、また日本の学生にとっても大きな気づきを得るものであると考えている。実際、日本の大学でもなかなかインドとの連携を積極的に進めるという動きは弱いのではないか。多くは日本とインド、彼我の文化の大きな違いも影響しているように思われる。先に言及した通り、食習慣や宗教観一つとっても、一見すると日本とは大きく異なるように感じるかもしれない。かくいう筆者も、最初にインドに訪問したときの「インドの衝撃」について昨日の事のように覚えている。今から20年近く前のことになるので、グローバルなフラット化のなかで大きく変貌を遂げている今となっては、それほど衝撃を感じないかもしれない。だが当時は、中国やAESEAN(東南アジア諸国連合)とも、また欧米とも全く異なる世界として映ったことを記憶している。

北陸の産学融合とインドとの連携

今回、サンジャイ・クマール・ヴァルマ(Sanjay Kumar Verma)大使との会合に筆者が招かれた理由は、大使に対して北陸の産学融合のポテンシャルとその強みを前提としたインドとの連携について説明することであった。このコラムでも紹介した、リスタートアップス(再創業・事業再構築)に関し、国際的な産学融合の可能性を展望するとともに、「シン産業化」を進める「サイバー・バレー構想」について詳細を講演させていただいた。福井から米国出身のIT起業家、帝都久利寿(ていと・くりす)氏にも駆けつけてもらい、日本海岸を日本の「西海岸」と見立て新たなイノベーションのハブとして北陸を位置付けるという「サイバー・バレー構想」の話について大いに盛り上がったものである。リスタートアップスについて、日本の産業構造の変化、北陸のポテンシャル、更には知識集約産業の台頭により、インドのIT・DX人財とオンリーワンの技術を有する北陸企業が融合することによるポテンシャルについて共有することができたのである。

既に何度か取り上げてきたとおり、日本のこれまでの産業構造の特性、そしてその近未来的な動向を前提にすると、企業側でも大きな事業転換を遂げつつある、あるいは遂げなければならないという強い危機感が存在する。従来の自動車産業や繊維産業などの集積をひかえる地方ではリスタートアップスがスタートアップス(起業)以上に効果的である。返す刀で、日本の旧産業の属する企業、特に中小企業については、確かに技術力について太鼓判を押すことが出来るものの、どうしても持続的イノベーションに向けて「KAIZEN」に注力しがちで、破壊的イノベーションにはついぞ至らない。旧結合から新結合に破壊的なイノベーションを目指すにあたって立ちはだかる「イノベーターのジレンマ」解消に向け、しがらみがなく、日本特有の高コンテクストを共有しないインドの学生や研究者、エンジニアは、敢えて選択すべきパートナーとなるはずだ(下記の図参照)。

図 インドDX人財との連携による北陸企業の破壊的イノベーションに向けた理論的背景

仄聞すれば、サンジャイ・クマール・ヴァルマ大使は今回の訪問で、石川県庁に谷本正憲県知事(当時)を表敬訪問された際に、北陸とインドの産学融合を前提とした展開の可能性について問題提起頂いたとのことである。

先ほど紹介した北陸先端大では、「Matching HUB:マッチング・ハブ」というイベントを毎年実施している( https://matching-web.jaist.ac.jp/portal/about01.html(外部リンク))。このイベントは、寺野稔・現学長が率先して進めておられる、北陸先端大の地方創生の取り組みであるとともに、北陸地域に産官学金のエコシステムを提供している。筆者は当初、大学院大学ということで、研究分野に特化してあまり外部、特に企業・地域との連携については取り組んでいないのではないかという先入観をもっていたものだが、寺野先生にも直接お伺いし、北陸先端大の積極的な取り組みに感銘を受けたものである。

「学都」金沢を中心に地域活性化へ

筆者は2020年度のイベント、「Matching HUB Kanazawa2020」に参加させていただいた。その際、金沢大学の新学域の取り組みについて紹介させていただく機会を頂戴したが、産学連携のエキスパートであるURA(University Research Administrator)の方々が、まさにコネクター、コーディネーターとしてハンズオンのマッチングを進めるとともに、スタートアップスにも目をやるために、ビジネスマッチングイベントを実施していることを学ばせていただいた。2014年度から2021年度まで、7回にわたり開催し、特に著者が参加した2020年度や2021年度は、新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、多くの類似のイベントがキャンセルか延期となってしまう中、周到に準備し、対面実施を実現しておられた。まさにニューノーマル(新常態)の大学の活動あり方について範を示すものとなるだろう。こうした先駆的な取り組みは、熊本大学や小樽商科大学、徳島大学、第一工科大学(鹿児島県)などの連携が進んでいるとのことであり、大学院大学として、これらの大学から、北陸先端大に入学する学生も登場しているという。筆者も、一昨年のイベント参加のご縁で、九州から北陸にやってきた学生がスタートアップスや地方創生に貢献したいという方にアドバイスしたが、こうした全国的なネットワークも北陸先端大の強みといえるだろう。

最近はこうした石川県、特に金沢を中心に大学の集積を強みとして積極的に推進する仕組みとして、金沢を「学都」と命名し、地域をプロモーションする動きが活発化している。目指すは、加賀藩政期に5代藩主前田綱紀公が知の拠点として推進し、新井白石から「天下の書府」と称された金沢の復権である。