2022年01月13日
坪井 務(つぼい・つとむ):
名古屋電機工業
新事業創発本部SATREPSプロジェクト
プロジェクトリーダー(博士)
<略歴>
1955年静岡県生まれ。79年日立製作所入社、重電モーター設計に従事し、87年半導体事業に異動、弱電技術最先端に専門を移す。97年日立アメリカに出向、米国のシリコンバレーの空気に触れる。2000年半導体事業部に帰任し、自動車分野での半導体開発を担当。03年ルネサステクノロジーに出向、10年日立製作所スマートシティ統括本部でスマートシティ事業従事。両親の介護の関係で12年浜松地域イノベーション推進機構に、14年名古屋電機工業に入社。
私のインドコラムは、いよいよ今回が最終回となりました。最終回を飾るべく、コロナ禍でほぼ2年ぶりとなった2021年12月1日から10日までのインド渡航の結果を報告することにする。今回の渡航で注目に値したのは、この2年間にインドではスマートシティに向けた取り組みが着実に行われていたことだった。
本題に先立ち、渡航の事前準備について触れておこう。コロナ感染がインドおよび日本においては沈静化されていることを確認し、2カ月前より準備を開始した。特に事前のPCR検査とその結果の相手国への事前登録や、各種書類の準備など、普段なら必要ない項目への対応が準備で最も気を遣う必要があった。渡航72時間前での検査ということで、今回は羽田空港出発とし、空港内にあるPCR検査場にて前日の検査を行った。陰性結果をもらい、その結果をインド国の指定サイトに電子登録を行い、何とか翌日午前のフライトに搭乗することができた。
機内は4割程度の乗客で、特に3密状態となることはなかった。デリー空港着陸が近づくと、キャビンアテンダントが一斉に感染防止ウェアの着用姿となり、乗客全員にフェイスシートの配布があった。デリー空港では海外からの入国者は全員フェイスシート着用義務とのことであったが、空港に到着すると、どうも日系航空会社の乗客のみ着用で、対応の仕方に国の差を感じざるを得なかった。
さて本題に入ることにする。今回の訪問地はデリーと、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)にて実証試験を展開しているアーメダバード市の2都市のみに限定した。本訪問で一番のインパクトが大きかったのが、アーメダバード市の地方行政が推進するスマートシティ公社の訪問とそこで受けたプレゼンテーションであった。注目に値する項目を以下に示す。
訪問した際、担当者と一緒に公社にて撮影した写真を下記に示す。前面のモニタースクリーンは常時、市内設置の監視カメラによる動画が映し出され、約50名の職員が3交代制でスクリーンの後ろの席で任務にあたっている。
スマートシティ公社を訪問(中央が筆者)
ここで学んだことは、近年のビジネスで盛んに言われるようになった「もの」から「こと」への転換が重要という言葉である。ハード面では今回の訪問から明らかなように、インド国主要都市では着々と進めている。今後はこうしたハードから何を目指すのかという点に話が進んでいる点で、これまでわが国で進めている新興国への政府開発援助(ODA)もこうした「もの」の提供から「こと」への転換が必要な時期にきているとも言えるだろう。
SATREPSで行っている交通量の見える化や渋滞の原因の追究のほか、世界で目指している低炭素社会への実現といった点をさらに発展させたいとの話を公社の担当者に持ち掛けると、「ぜひ上司と詳細の話をさせて欲しい」との前向きなコメントをいただけた。
続いてインド訪問にて特記することを紹介する。この2年間のコロナ禍の影響により、現地アーメダバード市における実証試験を行うことが困難であったため、SATREPS支援機関の一つである国際協力機構(JICA)から、コロナ禍で出張困難となっている出張旅費の一部を、現地研究機関に対して実証試験の再委託に使ってもよいとの配慮があり、アーメダバード市にてかねがね話題にあったCEPT大学(旧Centre for Environmental Planning and Technology)にその一部の委託をお願いし、今回の訪問計画に加えた。
また、今回のCEPT大学へは、在日インド大使館のMona Khandhar公使から紹介を受けた教授に依頼することにより実現したものであった。同公使はたまたまグジャラート州ご出身ということもあり、アーメダバード市のことに関しては、微に入り細に入り精通されており、ここでまたインド人の人脈の温かさにお世話になり、12月6日と9日の2日間にわたって我々の訪問を快く受けていただいた。その際のR&Dセンターでの議論と教授陣との写真を以下に紹介する。
CEPT大学R&Dセンター(左から2人目が筆者)
CEPT大学R&Dセンターにて教授陣と(左から2人目が筆者)
実証試験の一部は、市内に設置された交通情報板を活用し、情報板の半面に交通マナー(例えば車間距離を空ける)などの表示を流すことで、ここを通過する公共交通の市バスのドライバーの運転マナー向上を目指すものだ。CEPT大学の研究員の協力により、9カ所に設置された情報板を通過する市バス路線のドライバーに対して、情報板に対する意見や、これによって今の流行でいうところの「行動変容」につながったかのインタビューを75名実施するというものであった。出張時はまさに試験真最中であり、結果はお楽しみということになった。以下に、ちょうど交通マナー表示された交通情報板と、その前で筆者とSATREPS研究メンバーとで記念撮影した写真を掲載する。文字表記の場合、英語以外に現地のグジャラート語の翻訳に関しても、CEPT大学の協力を仰ぐ形となった。
アーメダバード市内の情報板
市内情報板の前で(右が筆者)
最後までいろいろお世話になったインドであったが、今後も何らかの形で関係を持ち、一連のコラムで紹介したSATREPSの目指す豊かな低炭素都市と快適な交通実現に向けた取り組みにかかわっていきたいと考える。そして、ここで紹介した内容が少しでも、後に続く後輩に何らかのお役に立てればと思うばかりである。