【調査報告書】『韓国における大学発スタートアップ育成に向けた取組』

2023年7月9日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『韓国における大学発スタートアップ育成に向けた取組』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy23_rr05

エグゼクティブ・サマリー

本報告書では大学発スタートアップの育成に向けたスタートアップ支援施策と産学連携によるスタートアップ・エコシステムのあり方を考える。そのため、海外事例調査として韓国の大学発スタートアップ支援施策とその実態を考察することで、日韓の将来の協力の基礎情報として韓国大学発スタートアップの現状と課題を把握するともに、日本が参考すべき事項を明らかにすることを目的とする。

まず、韓国スタートアップの現状を把握するために、各種の統計データや文献調査に基づいて韓国と日本のスタートアップ環境を比較してみた。その結果、政府の支援政策、大学のアントレプレナーシップ教育において韓国の評価が高いことに注目し、韓国政府のスタートアップ政策、官民による大学のスタートアップ支援施策について調べた。

次に、それに基づいて先進的なスタートアップ支援施策に取り組んでいる大学を対象としてインタビュー調査を行うために、優秀事例として韓国科学技術院(KAIST)、浦項工科大学(POSTECH)、蔚山科学技術院(UNIST)、漢陽大学(Hanyang University)の4大学を絞り込んだ。4大学のスタートアップ支援担当者を対象としてインタビュー調査を実施し、韓国の大学発スタートアップ支援策の実態と課題を洗い出した。

最後に、文献調査と大学スタートアップ支援担当者のインタビュー調査結果を踏まえて報告書を取りまとめた。

韓国政府は2017年3月、経済回復と雇用創出の切り札として起業活性化方案を検討し、大学を革新と創業の中心地として育成するための「大学発創業活性化方案」を公表した。以降創業中心大学、実験室創業支援事業など大学の起業支援事業や創業親和的学士・人事制度の拡散に取り組んできた。

大学ではアントレプレナーシップ教育から起業家の発掘、事業化、スケールアップへの支援など創業すべてのステージに対応する統合パッケージとして大学発スタートアップ支援施策が進められている。その結果、大学でのアントレプレナーシップ教育プログラムの整備や学生・教員による起業において一定程度成果を上げている。

スタートアップ・エコシステムにおいては大学間で少し温度差はあるものの、4大学では優秀な理工系人材や教員、そして優れた研究開発環境・研究成果を有することで、他大学に比べて産学連携の土台づくりや協力体制は優れている。さらに地域の創業拠点大学として政府・自治体からの後押しもあり、地域の大学・企業との連携も多くみられる。

しかしながら、まだ課題も多く、韓国の大学全体における起業への関心はまだ低い状況である。学生は依然として起業より就職を、教員は論文実績や技術移転を好んでおり、起業において首都圏と地方の大学との温度差も大きい。また、米国一辺倒の教育研修プログラムや定型化された起業支援プログラムにも変化が求められている。

このような課題は日本も同様であり、特にアントレプレナーシップ教育の実施大学が少ない日本の場合、韓国の事例は参考になると考えられる。両国においては、地域間格差を踏まえたスタートアップ育成施策とともに、独創的な教育プログラム、スタートアップ発掘・育成プログラムの開発・運営能力や、それを通じた大学の研究成果の事業化や起業化の成功事例の拡大によって企業・ベンチャーキャピタルなどを巻き込む力を高めることが大学発起業・スタートアップの促進のカギとなると考えられる。

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