IT大国・インドはどのように学んでいるのかー ④ 初等・中等教育のコンピューター学習

2023年2月16日

小林クリシュナピライ憲枝

小林クリシュナピライ憲枝(こばやし・くりしゅなぴらい・のりえ):
長岡技術科学大学 IITM-NUT
オフィス コーディネーター

<略歴>

明治大学文学部卒。日本では特許・法律事務所等に勤務した。英国に1年間留学、British Studiesと日本語教育を学ぶ。結婚を機にシンガポールを経てインドに在住。現在はインド工科大学マドラス校(以下IITマドラス校)の職員住宅に居住している。長岡技術科学大学のインド連携コーディネーターを務めるとともに、IITマドラス校の日本語教育に携わる。

今回レポートは、タミルナドゥ州チェンナイ市にある私立校、Chettinad Hari Shree Vidyashlam校(以下CHSV校)のコンピューター学習の様子を紹介する。

CHSV校(写真は同校の提供)

今までのレポートでお伝えしたように、インドでは、シラバスにより、また、学校により、学習内容はかなり違うので、一例としての紹介になる。この学校はインドのCISCE教育委員会[1]が提供するICSE/ISCシラバス[2]を採用する学校である。CISCEに属する学校は、インド及び海外に2535校(2022年)ある。

一方、中央政府系のCBSE教育委員会[3]に属する学校は、インド国内と海外に2万4000校以上(2023年)存在する。CISCEの約10倍の学校が存在している。その他、各州のシラバスの学校等もあるので、学校数全体としては、150万校ほど存在していると言われる。[4]

プログラミング言語は、CBSEに属する学校では、主にC++とPythonを学習しているが、CISCEに属する学校では、Javaが中心になる。ここでは、後者のシラバスに基づく、小学校から高校までのコンピューター学習の様子をお伝えする。

CHSV校は、幼稚園から12年生(日本の高校3年生に相当)まであり、幼稚園の2年間と、Grade1(日本の小学1年生に相当)までは、モンテッソーリ教育を行っている。コンピューター学習は、Grade2(小学2年生)から始まる。

クラスの人数は30人以下。1時限は40分。9年生(日本の中学3年生に相当)以上は、2時限続けて80分授業になることが多い。授業の前半は全員で講義を聞き理論を学び、後半は各自または2人1組で同教室内のパソコンで実践という流れが中心。コーディングはノートにも書いて提出し、教師が確認しており、伝統的な学習方法とデジタルテクノロジーの併用が興味深い。

今回は、4, 5, 6, 9, 10, 11, 12年生のコンピューター学習のクラスを見学する機会を得た。その様子と、各学年の学習内容を簡略に紹介する。

4年生の授業(写真は筆者撮影)

5年生の授業(写真は筆者撮影)
(コロナ感染のケースは現時点ではかなり少ないため、マスクの着用は任意)

学年 時限数/週 必修/選択 学習内容、アプリケーション、プログラミング言語等
2 2 必修科目 コンピューターの身近な使用例、役割を考える。構成装置、付属品の名称と役割、基礎的な使い方を理解する。パワーポイント上でマウスの使い方を覚えながら簡単な図形やお絵描きなど、楽しむ要素を重視。 2年生から5年生までは、基礎的な用語とその理解をしながら、実践ではゲーム的な要素を多く取り入れ、楽しく学べることを主にし、プログラミングに入る準備をする。
3 2 コンピューターシステム、ハードウエア・ソフトウエア、オペレーションシステム、インターネット等の概念理解。
キーボードの使い方。
Windowsの導入。Word、ペイント等の学習。
4 2 コンピューターの変遷。インターネット接続に関する用語とその役割。段階的思考の基礎。
タッチタイピングに慣れる。
4年生と5年生では、Studio.code.org.を利用している。
学んだことをWordwall等の学習ゲームで復習。
5 2 コンピューター言語、アルゴリズム、フローチャートの概念理解。システムソフトウエア、アプリケーションソフトウエアやコンピューターの利用方法。
ScratchやMinecraftなどで、ゲームから学ぶビジュアルプログラミングの導入。簡単なストーリービデオ、アニメーション、ゲームなどの作成。

6年生の授業(写真は筆者撮影)

6 2 必修科目 コンピューターのカテゴリーとコンピューター言語。ファイル管理 - データの整理。 ワードプロセッサー - 表形式プレゼンテーション。ワードプロセッサー - メールマージ。プレゼンテーション - ビジュアル効果。Scratch プログラミング - ゲーム制作入門。HTML - 入門。インターネット - オンラインサーフ。Excelの学習。
QBasicでプログラミングの基礎を学ぶ(QBasicは古くなっているので、来年度以降はC言語を学習する)
2年生から8年生までの必修期間内に、パワーポイント、ビデオ編集、コンピューター倫理などを適時学習する。
7 2 数体系の学習。ハードウエアコンポーネンツ。コンピューターウイルス。コンピューターの倫理と安全対策。
Spreadsheet。データベースと管理システム - 入門。アドヴァンストHTML。
コーディング学習開始。
C言語を学習(来年度以降はC++を学習)。
8 2 オペレーションシステム(OS)とグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)の役割と機能。Spreadsheet - 関数とグラフ。アルゴリズムとフローチャート。プログラムコーディング。簡単なアプリ開発。ネットワークについて。
C++を学習(来年度以降はPythonを学習)。
9 4 選択科目 オブジェクト指向プログラミングの概念入門:
(i) オブジェクト指向プログラミングの原理、(プロシージャ指向とオブジェクト指向の違い)
(ii) Java入門
オブジェクトとクラスの基本概念。値およびデータ型。Javaにおける演算子。Javaのインプット。数理ライブラリメソッド。Javaにおける条件付き構成要素。Javaにおける反復処理構造。ループ処理のネスト。コンピューティングと倫理。
10 4 9年生の復習。
すべての計算の基礎となるクラス。
ユーザー定義メソッド。コンストラクタ。クラスライブラリ。カプセル化。配列。文字列処理。
10年生の卒業統一試験に向けての準備も含まれる。本試験前に、予備試験が2回行われる。
11 9 A類:コンピューターのハードウエアとソフトウエアの基礎:
1)数値 2)エンコーディング 3)命題論理、ハードウエア実装、算術演算
B類:
Javaによるオブジェクト指向プログラミング入門。
オブジェクト。プリミティブ値、ラッパークラス、型とキャスト。変数、式。ステートメント、スコープ。メソッドとコンストラクタ。配列、文字列。
C類:
基本的な入出力データファイルの取り扱い(バイナリ、テキスト)。リカージョン。問題を解決するためのアルゴリズムの実装。パッケージ。コンピューティングの動向と倫理的課題。
 
12 9 A類:
ブール代数。コンピューターハードウエア。
B類:
問題解決のためのアルゴリズムの実装。Javaのプログラミング(11年生の復習)。オブジェクト。プリミティブ値、ラッパークラス、型とキャスト。変数、式。ステートメント、スコープ。メソッド。配列、文字列。リカージョン。
C類:
継承、インターフェイス、ポリモーフィズム。データ構造。
Javaのアドヴァンストコンセプト。
12年生の卒業統一試験に向けての準備も含まれる。本試験前に、予備試験が2回行われる。

9年生の授業

10年生の授業

11年生の授業

12年生の授業(写真はいずれも筆者撮影

各学年で、利便性の高いEdTechツールは種々積極的に利用されていた。

全体を通して、教師はプログラミング言語のエッセンスを理解しており、かつ、生徒が自主的にロジックやアルゴリズムを考えるよう、アクティブ・ラーニング、チャイルド・セントリックな活動を心掛けられている。生徒は積極的に授業に参加し、どの学年も楽しんでいる様子であった。

CISCEでは、10年生までを担当する教師は、コンピューターの学士号と教育学士の取得者で、11・12年生を担当する教師は、コンピューターの修士号と教育学士の取得者とのこと。先生の多くは、IT企業経験者で、この科目の社会での実用を理解している。

インドでは、アウトリーチ福祉活動が盛んにおこなわれており、大手企業のスタッフが、支援を必要とする地域の学校にコンピューター科目等を教えに行ったり、十分な教育が行えている大学や高校が支援を必要とする学校、学生のサポートをするなど、助け合いによってより多くの人が教育の機会が得られるような奉仕活動も多い。

昨今、インドでコンピューターサイエンスを学びたい学生が非常に多い理由について同校の先生に尋ねたところ、一つの理由として、学生達の親の世代が既に近年の技術の飛躍的な発展と改善により、社会が受けてきた恩恵を目の当たりにし経験してきたからだと答えた。

教育に情熱を持ち熱心に教える先生やクラスメートと協力しながら積極的に活動する学生達の授業を楽しませていただいた。取材に丁寧に協力くださった学校に感謝申し上げる。

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